語彙力は、韓国語のみならずあらゆる外国語学習の土台。しかしそのために単語の暗記は避けて通れません。
学習時間を確保できない人や物忘れが増える年齢の人にとっても同じことです。この「単語問題」、一体どうすれば解決できるでしょうか?
前回の記事「韓国語の単語学習(3)どうやって覚えればいい?」では、単語を覚えるときのメカニズムについて見てみました。
この記事では、すでに多くの人によって実践されている主要な単語学習法には、どのようなものがあるのか確認していきます。
今回も、日本語・韓国語の教師で認知心理学の観点から研究をしている学習院大学の柳本大地先生にご協力いただきました。
記事の目次
日本語と韓国語の単語を対で覚えていく
日本語と韓国語の単語を1対1で覚えていく方法は、比較的短い期間に多くの単語を覚えるのに有効です。
HANAの中には、単語はひたすら「日韓1対1」で覚えたというスタッフもいれば、最近、ハングル検定1級を受験するに当たって、目標級の語彙を大量に覚える必要から単語リストで暗記する方法に切り替えたスタッフもいます。
でもこの方法は、集中力だけでなく忍耐力も必要ですね。
覚える素材としては、日々使用している学習教材から単語を抜き出してリスト化し、それを使うこともできます。
また、単語カードを使った学習法やスマホのアプリの活用もおすすめです。
市販の単語学習書は、見出し語とその日本語訳に加え、発音や漢字などの単語情報、さらに例文とその訳まで示したものが多いですが、こうした本は覚える際の目安として一定数の単語でユニットを構成しているものが多く、例えば「全840語を10週間で覚える」といった計画も立てやすいです。
『キクタン韓国語中級編』(HANA韓国語教育研究会編。アルク刊)のような、見出し語と対訳をリズムに乗せて読み上げ、ひたすら聞いて音声から単語を覚えるスタイルの本もあります。
たくさんの単語を覚える方法で、一般的に広く取り入れられているものですね。
1日幾つ覚える。あるいは、検定試験までに3000個覚えるなど、目標の設定が明確になる学習方法です。
一方で思い出すときの手掛かりが少ない分、形と音の情報と意味の情報の結び付けを強くしておく必要があります。
そのためには、一度覚えてもまた繰り返し、長期記憶から「検索」する練習を行う必要があります。
関連する単語をまとめて一緒に覚える
1つの単語を軸にして、ニュアンスの異なる類義語を一緒に覚えたり、料理に関連する動詞をセットで覚えたり、程度を表す副詞をセットで覚えたりする方法です。
学習書や辞書を見て自分なりに単語帳を作って覚える方法が、記憶にも残りやすくおすすめですが、単語を比較しながら学べる構成の『韓国語似ている形容詞・副詞使い分けブック』(河村光雅、金京子著。ベレ出版刊)が出版されています。
また、単語列挙型の本の中には、1日の学習ユニットを特定のカテゴリーの単語でまとめてある『中級韓国語単語練習帳』(金京子、神農朋子著。白水社刊)のような本もあります。
こうした本であれば、単語同士を関連づけて覚えることができます。
関連する情報は、つながりを持ったネットワークを構築して貯蔵されるので、『検索』の手掛かりとしても有効です。
単語を例文で覚える
単語を単語単位で覚えるのではなく、例文に当てはめた形で覚える方法です。
単語は実際には文の形で聞いたり話したりすることがほとんどなので、それになるべく近い形で覚えるのも1つの考えです。
ただし、例文ごと覚えるというのであれば、紙面の文字だけを追うのではなく、なるべく実践的な音声に依拠したいので、本の付録音声に例文音声が含まれているかどうか確認するようにしましょう。
いずれも検定試験の級別出題範囲に沿った単語集ながら、例文がすぐ口に出して話せる短い文になっている『改訂版hanaの韓国語単語 初中級編』(ミリネ韓国語教室著。HANA刊)、短い例文を書き写して覚える『書いて覚える韓国語単語 入門編』(hana編集部編。HANA刊)、会話などの実践的な例文を聞かせる音声の『新装版韓国語能力試験TOPIK II 必須単語完全対策』(シン・ヒョンミ他著。HANA刊)がこの学習に適しています。
テーマや分野ごとに短文を読み、そこに現れた未習単語を覚える
短い文章の中に出てくる未習単語を学ぶという方法です。
文章をノートに書き写したりプリントして貼り付けたりして、文章を参照しながら、単語を学べる工夫をするといいでしょう。
短めの文章は音読練習にも適しており、単語を覚えた後で音読を行うとよい効果が得られます。文章は自分の興味に沿って、選んだらいいでしょう。
市販の教材としては、『韓国語単語スピードマスター中級 2000』(鶴見ユミ著。Jリサーチ出版刊)、『韓国語能力試験TOPIK5・6級高級単語800』(河仁南、南嘉英著。語研刊)などがさまざまなジャンル・テーマから短い文章や対話文を提示し、そこに含まれる単語を学ぶ構成になっています。
単語と文脈の情報を一緒に覚えることで、思い出す手掛かりも増えます。
興味に沿った文章や作品を読んだり聞いたりする
興味に沿った文章や作品を読んだり聞いたりすることで、知らず知らずのうちに単語が身に付くという方法もあります。
知らない語があっても、なるべく類推しながら読み進めるいわゆる「多読(多聴)学習法」と呼ばれるものです。
辞書を調べる手間を最小限にして、分からない単語は類推しながら話の筋や流れを追い、全体として理解することを最優先にします。
本来これは単語の学習法ではありませんが、多くの韓国語を消化するうちに語彙力も身に付くという利点があります。
重要な語彙ほど頻出するので覚えやすく、「それが分からないとどうしても読み進められない」ようなキーワードのような単語は、一度辞書で調べて意味を知ると忘れにくいです。
「意味」を推測しながら文全体の理解をすることは読む力を養う練習になります。
また、たくさんの単語の検索を行うことで、すでに知っている知識の強化にもつながります。
韓国語を駆使して仕事をしているHANAのスタッフの中には「単語の勉強それ自体に取り組んだことがない」という人もいます。
つまり単語学習書や単語帳を使うことなく、韓国語の本を読んだり、歌手のMCやインタビューを聞いたり、ホームページで情報を探したりする中で、いつのまにかそれなりのボキャブラリーが身に付いていたというわけです。
自分の性格や習慣に合った方法を採用する
ここまで幾つかの単語学習法を見てきましたが、要は、自分の性格や習慣に合った方法を採用することが重要です。
どの方法を選ぶかは、個人の性格や習慣、さらには目標やレベル、成功体験とも関わってくるはずです。
自分の学習方法が定まっていない人は、幾つかを試してみて、自分に一番合っていると思えるやり方を採用するといいでしょう。
取材協力
柳本大地
学習院大学国際センター准教授
【 やなもとだいち 】
1983年神戸生まれ。広島大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士)。兵庫教育大学在学中に大邱教育大学へ1年間留学。大学卒業後、大邱外国語高校で日本語を教える傍ら大邱教育大学大学院で教育メディア開発を専攻。同大学初の外国人修士号取得者となる。これまで、韓国語・日本語教育に携わってきた。現在、学習院大学国際センター准教授。多文化共生・国際協働学習の科目を担当。認知心理学の観点から第二言語の記憶や理解過程に関する研究を行う。著書に『なりきり! 韓国語会話トレーニング』(HANA刊)、『실전 일본어 회화 플레이』(韓国・사람in刊)、『新一代大学日语教程』第二冊(中国・外语教学与研究出版社刊)がある。
この記事が掲載されている書籍
定価:1518円(本体1380円+税10%)