「韓国語をうまく話す」「スピーキングが上手だ」ということが実際にはどういうことなのか、その実現のために何が必要なのかについて、現場での教授経験豊富な韓国語の先生の意見を参考にしながら考えていきたいと思います。
「ネイティブ並み」に話すということの難しさ
まず、外国語の学習者にとっての究極の目標「ネイティブ並み」に話すということについて考えてみたいと思います。
「ネイティブ」とは「ネイティブスピーカー(母語話者)」のことで、いつからか日本においては特に英語の母語話者のことを指すようになりました。最近では他の外国語の母語話者についても使うようになったと言えます。
例えば、韓国に行って初対面の人としばらく話した後で、自分は日本から来たと告げたところ、「うそでしょう?」と驚かれたとしたら自分の学習の成果に一層の自信を感じるとともに、一種の優越感にも浸れそうですね。
しかし現実には、日本語を母語として育って大人になった人が、日本語の中にない音を聞き分けたり、日本語と異なるイントネーションをマスターしたりするのは、環境はもちろん、かなりの努力が必要で、簡単ではないでしょう。
日本語の方言であれば、成人してから上京して、数年で東京の言葉を違和感なく使うようになる人がいますが、この場合、学校教育や放送を通じてずっと東京の言葉に親しんできたという大きなアドバンテージがあります。
ましてや、外国語である韓国語を、一日中それに触れる環境に自らを置くことなく、違和感なく話せるようになったとしたら、それは特別な才能だと言えるでしょう。
「ネイティブ並みの発音」を習得することは大切?
こと韓国語に関しては「ネイティブ並みの違和感のない発音」で話せるようになりたいという人が多いように感じますが、日本語を母語にする人が、一定の年齢以降に学習を始めてこの境地を目指すべきでしょうか。
人間には子どもの頃に言語の「臨界期」があるといい、それ以前に多言語の環境にいれば多言語の母語話者になりやすいといわれていますが、逆に、その時期を過ぎると、聞き分けの能力などが固まってしまいます。
大人になっても臨界期が来ない人もいますが、大部分の人は中学以上になると自分の母語以外の発音の聞き分けができなくなってしまうと言います。
こうした難しさもあって、教室で「ネイティブ並みの発音」を習得したいという人がいれば、それに沿った指導はしますが、積極的ではない先生も多くいらっしゃいます。
発音は言語のルックスである
4年間にわたり、全国28都市、延べ4300人が参加した発音セミナーの講師、稲川右樹先生はこうおっしゃいます。
発音セミナーに来ているという点を割り引く必要はありますが、ネイティブのように話したいという人は私のセミナーの受講生の中には多いです。中上級講座では35%くらい。
私は常々「発音は言語のルックスだ」と思っているんですが若い学習者になるほど、韓国語にはファッションとしての存在意義があって、ルックス重視、つまり韓国人のように自然に話せることに憧れるのだと思います。
もちろん、何を話すのか、すなわち意思伝達が発音よりも大事だということには、私も異論はありません。でも、一方でルックス重視も結構なことだと思います。
何より、そういうモチベーションが現実に存在している以上、そのモチベーションをそぐ必要もないでしょう。
目標に向けて一定の努力を継続する
最近では、韓国のファッションや文化に憧れて「韓国人になりたい」と言う若者がいるといいます。
若者に限らず、語学学習においてもそうした憧れや動機、目標があることは当然ですし、それを否定する必要もありません。
ただし、一度出来上がった「日本語耳」で、韓国語の発音や抑揚を正しく聞き取り、それを発音に生かすには一定の努力を継続していくことが求められます。
取材協力
稲川右樹
帝塚山学院大学准教授
【 いながわゆうき 】
専門は韓国語教育。2001〜2018年まで韓国・ソウル在住。ソウル大学韓国語教育科博士課程単位満了中退(韓国語教育専攻)。ソウル大学言語教育院、弘益大学などで日本語教育に従事。著書に『ネイティブっぽい韓国語の表現200』『ネイティブっぽい韓国語の発音』(いずれも出版社HANA)、訳書に『僕はなぜ一生外国語を学ぶのか』(ロバート・ファウザー著、クオン刊)。
この記事が掲載されている書籍
定価:1518円(本体1380円+税10%)