서울への玄関口として日本からの旅行者にもおなじみの인천(仁川)国際空港。
海上に浮かぶ島の上に位置するこの空港に降り立ち、長い橋を渡ってソウル市内に向かった経験のある人も多いだろう。
『プロジェクト・サイレンス』は、この橋の上で起きたアクシデントに巻き込まれた父と娘の運命を見つめるスリリングなパニック・ムービーだ。
極限状況で再発見される父と娘の絆
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次期大統領との呼び声も高い上司のもとで仕事に追われ、忙しい日々を送ってきた国家安保室副室長차정원。
ひとり娘の자경민を留学先へと送り出すため車で空港に向かっていた彼は、濃霧のなか、前方で起きた事故の影響を受け、大橋の上で立ち往生してしまう。
やがて、電波も途切れ孤立した彼らに、移送中の車から脱走した軍事実験体〈エコー〉の恐怖が迫る。
予想もしなかった出来事に直面した人々が、命がけでその状況から逃れようとする姿をダイナミックに描くパニック・ムービーは世界的に人気のジャンルだ。
韓国映画でも、毒ガスが街を覆う『엑시트(EXIT)』(19)、飛行中の旅客機のなかで謎のウイルスが拡散する『비상선언(非常宣言)』(22)、巨大地震後の世界に生きる人々の変貌を見せる『콘크리트 유토피아(コンクリート・ユートピア)』(23)などが作られてきた。
そうしたなかで김태곤監督が手がけた『プロジェクト・サイレンス』は、大ヒット作『부산행(新感染 ファイナル・エクスプレス)』(16)の박주석が監督と共同で脚本を手掛けているせいか、限られた時間と空間のなかで不仲だった父と娘がお互いの大切さを再発見していく過程や、個性的な登場人物たちの活躍など、同作と重なって見えるポイントが多い。
『新感染〜』で공유演じる主人公の娘を演じていた김수안がジョンウォンの娘ギョンミンに扮していることも影響しているだろう。
もちろん、水平方向に移動する列車が舞台だった『新感染〜』に対し、「橋ごと落下するかもしれない」という垂直方向の恐怖が映画全体を支配している点や、「現場ではない」ところに悲劇の原因があるところなど、本作ならではの見どころも多い。
イ・ソンギュンの個性が光る演技
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上司である国家安保室長を自らの手で彼を大統領にしようと精力的に活動していているジョンウォンを演じているのは、2023年末に惜しくもこの世を去った이선균。
『파서타』や『나의 아저씨(マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜)』といったドラマで人気を集め、『기생충(パラサイト 半地下の家族)』(19)への出演で世界的にも注目されていた彼は、23年5月に本作とスリラー『잠(スリープ)』(23)を携えてカンヌ国際映画祭に参加。
今後、ますますの活躍が期待されるなかでの悲報が衝撃を与えた。
トレードマークの低くて深い声と、臆病で、自分を守るためには卑怯に立ち回ることもあり、それでいてどこか愛らしくて憎めないような、人間的なキャラクターを演じられる、唯一無二の俳優だった。
『プロジェクト・サイレンス』でも、彼らしさを存分に発揮している。
主人公をとりまく多彩な人物たち
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他人のことなど考えず、自分と娘だけが生き残ることを考えていたギョンミンと、いつの間にか協力することになっていく周囲の人物たちもユニークだ。
橋の手前のガソリンスタンドでギョンミンと一悶着起こすレッカー車の運転手조박に扮しているのは最新ドラマ『준증외상센터(トラウマコード)』(25)も好評の주지훈。愛犬ジョディを抱え、飄々と危機に対処する姿が笑いを誘う。
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そのほか、ドラマ『악귀(悪鬼)』の예수정扮する認知症の妻순옥を最後まで守ろうとする병학を『커넥션』などで悪役のイメージが強い문성근が感動的に見せる。
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また、プロゴルファー심유라を『드라이브(ドライブ)』(24)で青龍映画賞新人賞に選ばれた박주현が演じている。
さらに、軍事実験体〈エコー〉の産みの親양박사(ヤン博士)役は『보이스(声 姿なき犯罪者)』(21)の김희원。ドラマ『조명가게(照明店の客人たち)』(25)を初監督したことも話題の彼が、自らの招いた悲劇に翻弄される人物を人間臭く演じている。
はたして彼ら彼女らは、無事、橋を渡ることができるのか。最後まで見届けてほしい。
原題:탈출:프로젝트 사일런스
邦題:プロジェクト・サイレンス
公開:(韓国)2024年7月12日(日本)2025年2月28日
監督・脚本: キム・テゴン 『グッバイ・シングル』
共同脚本 :パク・ジュソク『新 感染』シリーズ 脚本、キム・ヨンファ 『神と共に』監督/脚本
撮影 :ホン・ギョンピョ『パラサイト 半地下の家族』『哭声/コクソン』
出演:イ・ソンギュン『パラサイト 半地下の家族』「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」、チュ・ジフン『神と共に』「キングダム」、キム・ヒウォン『声/姿なき犯罪者』「ミセン」