民主化を求めて街へ出た多くの学生や市民たちが自国の軍隊の持つ銃で撃たれ傷つき、命を落とした5.18 광주민주화운동(光州民主化運動)。
映画『택시운전사(タクシー運転手 約束は海を越えて)』は、21世紀の日本に生きる私たちを1台のタクシーに乗せて1980年の韓国へと運び、そこで起きたことの意味を考えさせた。
高額料金を目当てに光州に向かうタクシー運転手
박정희(朴正煕)大統領暗殺翌年の1980年春。学生たちを中心とした民主化運動は活発化し全国に拡大していた。
妻亡き後、経済的に苦労しながら一人で娘を育てる서울(ソウル)のタクシー運転手만섭(マンソプ)は「外国人の乗客を광주(光州)まで乗せていく割の良い仕事がある」という情報をつかみ、機転を利かせて乗客を横取りする。
車に乗ったドイツ人記者ピーターは彼の怪しげな態度に不審な顔を見せるが、マンソプは構わず出発。厳しい検問を抜け、無事、光州に到着するが、そこでは予想もしていなかった光景が広がっていた。
2017年に外国映画を含め唯一の観客動員1000万人作品となった今作。朝鮮戦争休戦間近の最前線の兵士たちの姿を描いた2011年の『고지전(高地戦)』に続いて歴史的な出来事を取り上げた장훈(チャン・フン)監督は「何よりも、若い観客にこのことを知らせたかった」と、この作品に関わった動機を語っている。
歴史的な出来事を「外からの目」で見つめる
『박하사탕(ペパーミント・キャンディー)』(2000)や『화려한 휴가(光州5・18)』(2007)など、光州民主化運動についてはこれまでも何本かの映画が作られてきた。そんな中で今作の特徴は、実際にあった出来事を基に「ソウルに住むタクシー運転手」と「外国人記者」という、「外からの目」で「その時、光州で何が起こっていたか?」を描いているところだ。
徐々に変化していく主人公に注目
国民的俳優という呼び名が誰よりも似合う송강호(ソン・ガンホ)演じるマンソプは、商売の邪魔になるデモには批判的だった人物。
そんな彼がただ“お金のために”日帰りの予定で光州に向かい、英語のできる大学生재식(ジェシク)や、地元のタクシー運転手태술(テスル)と出会い、自分と変わらない“普通の人たち”が抗議の声を上げて街に出ていることを知る。
さらに市民たちに銃を向ける軍人たちの姿や、負傷し、命を落とした人々を目の当たりにしたマンソプの心情は徐々に変化していく。
「外からの目」で捉えられた事柄で構成されている本作は、「光州民主化運動がなぜ起きたのか?」といった質問には答えてくれない。むしろ、見終わった後で「さらに学び、考える」ことを観客に強く期待する映画だ。
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