ここ数年、女性監督の活躍がますます目立つ韓国映画界。日本でも김보라(キム・ボラ)監督の『벌새(はちどり)』(2019)、김도영(キム・ドヨン)監督の『82년생 김지영(82年生まれ、キム・ジヨン)』(2019)、이종언(イ・ジョンオン)監督の『생일(君の誕生日)』(2019)といった作品が相次いで紹介されてきた。
김초희(キム・チョヒ)監督の『찬실이는 복도 많지(チャンシルさんには福が多いね)』もそんな流れの中にある1本だ。
プロデューサー出身の女性監督によるデビュー作
長年、組んできた監督の突然死によって仕事を失った女性プロデューサー찬실(チャンシル)。生活を切り詰めるため都心から離れた場所の丘の上にある下宿に引っ越した彼女は旧知の女優소피(ソピ)の家事手伝いをして生活費を稼ぐようになる。
映画作りに対する意欲もすっかり失ってしまった彼女は、ソピにフランス語を教えている김영(キム・ヨン)との会話に慰めを感じ始めるが……。
『당신얼굴 앞에서(あなたの顔の前に)』(2021)など、毎年、精力的に作品を生み出し続ける홍상수(ホン・サンス)監督作品のプロデューサーを務めてきた経験を持つキム・チョヒ監督。
プロデューサーの仕事を辞め、「これから映画の仕事を続けるのか、それともまったく違う仕事をするのか」と悩んでいた彼女が、이병헌(イ・ビョンホン)主演の『그것만이 내 세상(それだけが、僕の世界)』(2018)で경상도(慶尚道)方言を話すことになった윤여정(ユン・ヨジョン)の方言指導をしたことをきっかけに今作の構想を得たという。
大好きだった映画制作を突然、やめることになった女性という、自身と重なる主人公チャンシルが周囲の人々とのやりとりの中で、もう一度、映画への愛情を取り戻していく姿を、オフビートな笑いと共に描いていく。
主演のカン・マルグムは今作でブレイク
チャンシルを演じているのは、演劇を中心に活動してきた강말금(カン・マルグム)。奇妙でいて愛らしい人物になり切った演技が高く評価され、百想芸術大賞をはじめとする各映画賞で新人賞を受賞。
その後、「서른, 아홉(39歳)」(2022)、「신성한, 이혼(離婚弁護士シン・ソンハン)」(2023)、「나쁜 엄마(良くも、悪くも、だって母親)」(2023)などドラマへの出演も続いている。
また、人生に迷う찬실が引っ越す下宿を営むおばあさん役でユン・ヨジョンも出演している。
名作映画へのオマージュも
キム・チョヒ監督が最も好きだという小津安二郎へのオマージュなど、名作映画にまつわるせりふや設定も多数登場。
特に、ドラマ「사랑의 불시착(愛の不時着)」(2019)の귀때기(耳野郎)役でおなじみの김영민(キム・ヨンミン)扮する香港の俳優장국영(レスリー・チャン)と名乗る謎の男とのとぼけたやりとりが楽しい。
この映画が紹介されている書籍
定価:1490円(本体1355円+税10%)