デビュー作の『조용한 가족(クワイエット・ファミリー)』(1998)以来、スタイリッシュなエンターテインメント作品を作り続けてきた김지운(キム・ジウン)監督によるスパイムービー。韓国を代表する俳優たちがスリリングな駆け引きを見せる。
まったく違う立場で出会った人々の心理戦
朝鮮が日本の支配下に置かれて10年以上が過ぎた1920年代初め。日本の警察で働く이정출(イ・ジョンチュル)は、統治の要となる建物を破壊し、要人を暗殺することを主要な目的として結成された의열단(義烈団)に接近し、団長정채산(チョン・チェサン)を捕らえる作戦の遂行を命じられる。
その後、義烈団の若きリーダー、김우진(キム・ウジン)と知り合ったイ・ジョンチュルは彼らの拠点となる上海へと渡る。一方、爆弾を移送しようとしていた義烈団側も、イ・ジョンチュルを利用しようともくろんでいた。
2008年に日本による統治時代を背景にした痛快活劇『좋은 놈, 나쁜 놈, 이상한 놈(グッド・バッド・ウィアード)』を作った김지운監督。
ほぼ同じ時代を取り上げた『密偵』では、1923年、義烈団の김시현(金始顕、キム・シヒョン)らが京畿道警察部の朝鮮人警部であった황옥(黄鈺、ファンオク)と協力して爆弾や文書を中国から朝鮮へと持ち込み、各地で暴動や暗殺工作を行おうとして逮捕された実際の事件をモチーフに、腹の底に真意を隠した男たちの命懸けの攻防が描かれていく。
名優ソン・ガンホがドライな主人公を演じる
黄鈺をモデルとするイ・ジョンチュルを演じるのは、韓国最高の俳優といって過言でない송강호(ソン・ガンホ)。김지운監督作品には『クワイエット・ファミリー』、『반칙왕(反則王)』(2000)、『グッド・バッド・ウィアード』に続いて4度目の出演となる彼が(2023年公開の『거미집(クモの巣)』にも主演)、独特のユーモラスな口調を封印し、義烈団への共感と任務との間で揺れる心情をドライに見せている。
映画全体が彼の心の変化を追う作りになっており、要所要所で見せる感情の高ぶりが、見る者の心を強く揺さぶる。
イ・ビョンホンが貫禄のあるリーダー役
そんな彼に「형(アニキ)」と呼び掛けながら近づくキム・ウジンを『부산행(新感染 ファイナル・エクスプレス)』(2016)の공유(コン・ユ)、知的で大胆な行動を見せる義烈団女性団員の연계순(ヨン・ゲスン)を『해피 뉴 이어(ハッピーニューイヤー)』(2021)の한지민(ハン・ジミン)が演じている。
また、日本の敗戦まで、ただの一度も捕まることがなかったという義烈団の伝説的リーダー김원봉(金元鳳、キム・ウォルボン)がモデルのチョン・チェサンを이병헌(イ・ビョンホン)が貫禄たっぷりに見せている。