朝鮮戦争によって生き別れてしまった家族のために奮闘する男性덕수(トクス)の背中から韓国の激動の現代史を見せるヒューマンドラマ『국제시장(国際市場で逢いましょう)』。
韓国で1400万人以上の観客を動員したこの作品には、「映画を通じてこの時代を生きた人々の重要性を伝えたい」と願う監督윤제균(ユン・ジェギュン)の思いがこもっている。
朝鮮戦争によって引き裂かれた家族の肖像
朝鮮戦争が始まって半年が過ぎた1950年12月。中国軍が迫る北部の街흥남(興南)の埠頭から、米軍の船に乗って부산(釜山)へと避難しようとしたトクス一家は、混乱の中で父と妹と生き別れてしまう。
母とトクスらはなんとか逃げ延び、국제시장(国際市場)に店を持つ伯母宅に身を寄せる。長男として一家の責任を負うことになったトクスは、弟の進学や妹の結婚など、金が必要となるたびに家を離れ、命懸けで働く。
特別な人生を生きた平凡な男の生涯
朝鮮戦争中に避難してきた人たちが闇市を開いていた場所として知られる国際市場は、近代的な都市に変貌しつつある釜山の中でも、どこか懐かしい雰囲気が漂う。
2014年12月に公開され、1400万人以上という観客動員数を記録した『国際市場で逢いましょう』は、そんな“ちょっとレトロな市場”を話題の中心地へと様変わりさせた。
主人公トクスは、植民地支配からの解放後、すぐに内戦に突入し、経済的にも苦難を味わってきた韓国で、家族のために身を粉にして働いてきた「何人もの父親たち」を集めたような人物だ。
1950年の興南埠頭、外貨獲得のため炭鉱労働者や看護師が派遣されていた1963年の西ドイツ、兵士と共に技術者も働きに出掛けた1974年のベトナム、そして、離散家族を探すテレビ番組に出演するため、多くの人たちが集まった1983年の여의도(汝矣島)と、その時代を象徴する場所に姿を現す。
そのため、平凡でありながらも、どこか“スーパーマン”的に見えるが、『다만 악에서 구하소서(ただ悪より救いたまえ)』(2020)などで見せたどぎついキャラクターだけでなく、等身大の人物でも観客の心を動かしてきた황정민(ファン・ジョンミン)が感情豊かに演じ切っている。
父への思いを込めたユン・ジェギュン監督
監督は「初めての子どもが誕生したのをきっかけに、早くに亡くなった父の人生を映画にしたいと思った」と言うユン・ジェギュン。
『두사부일체(マイ・ボス マイ・ヒーロー)』(2001)に代表されるコメディーや、『해운대(TSUNAMI ―ツナミ―)』(2009)などの大作アクションを監督し、プロデューサーとしても活躍してきた彼が、蓄積してきた技術をフルに使って、雪の中での興南撤収作戦や離散家族を探すテレビ番組といった歴史的な現場を、壮大なスケールで再現している。
自身の父親と主人公の共通点は「性格だけ」とのことだが、一人の平凡な人物の生涯に凝縮された韓国の歴史を見せながら、「子どもたちの世代に今の韓国があるのはこの人たちがいたからだと知ってほしい」と強く願う気持ちが伝わってくる。
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