韓国の映画やドラマを見てきた人にとって、「初恋」というのはおなじみのテーマだ。韓流ブームのきっかけを作ったドラマ「겨울연가(冬のソナタ)』(2002)をはじめ、印象に残る作品は数多い。
幼い頃に韓国からカナダに渡った셀린 송(セリーヌ・ソン)監督が手掛けた『패스트 라이브즈(パスト ライブス/再会)』も、初恋の相手との24年ぶりの再会を描くラブストーリー。
故国を離れ、移民先で新しい人生を歩んできた女性の心の揺らぎを繊細に描き出していく。
24年ぶりにニューヨークで再会する幼なじみたち
一家でカナダに移民すると告げられ、驚く小学生나영(ナヨン)。お互いに心の中で好意を持っているクラスメイトの해성(ヘソン)とも離れ離れになってしまう。
12年後、ナヨンは노라(ノラ)という英語名にもすっかり慣れ、劇作家としてニューヨークで暮らしていた。一方、ナヨン(=ノラ)のことが忘れられないヘソンはオンライン上でついに彼女を発見。2人はビデオチャットで言葉を交わすようになる。
やがて、ノラにとっても彼の存在が大きくなっていくが、彼と会うために韓国へ戻るという選択がどうしてもできなかった。さらに12年後、ついにヘソンがニューヨークにやって来る。
人生についての洞察に満ちた脚本
劇作家で、今作で映画監督デビューを果たしたセリーヌ・ソンが自身の経験を基に作り上げた『パスト ライブス/再会』。
12歳で別れた2人の男女の12年後、24年後を美しく落ち着いた映像で見せていくこの映画は世界各国で絶賛され、米国のアカデミー賞でも作品賞と脚本賞にノミネートされた。
映画の中では主人公2人の関係を、恋愛感情だけでなく、인연(縁)という概念を使って説明する。
西洋の観客にとっては新鮮だったであろう、韓国語の「縁」は、日本の「袖振り合うも他生の縁」という言葉とも重なる意味を持つ。
人は自分でも気付かないうちにいくつもの人生を生き、その中で誰かと縁を重ねる。
移民として韓国を離れた後、全く違う人生を生きてきたノラは、ヘソンとの間にそんな縁を感じるだけでなく、「過去の自分」を知る彼との再会によって「選ばなかったもう一つの人生」と直面することになる。
国際的なキャストが見せる素晴らしい演技
ノラ役を米国で活躍する俳優그레타 리(グレタ・リー)、ヘソン役をドイツ出身で、ドラマ「연애대전(その恋、断固お断りします)」(2023)などに出演してきた유태오(ユ・テオ)が演じている。
ちなみに、セリーヌ・ソン監督の父は『넘버3(ナンバー・スリー No.3)』(1997)などを手掛けた송능한(ソン・ヌンハン)監督。
『パスト ライブス/再会』では彼をモデルにしたノラの父親役に「슈룹」(2022)の최원영(チェ・ウォニョン)が扮している。