1996年の第1回以来、韓国映画の魅力を世界に発信する役割を果たしてきた釜山国際映画祭。
29回目を迎えた今年(10月2日から11日にかけて開催)は、史上初めて劇場公開作ではなく、配信プラットフォームのオリジナル作品『전, 란(戦と乱)』がオープニングを飾った。
韓国映画を代表する俳優강동원(カン・ドンウォン)と、若手のトップを走る박정민(パク・ジョンミン)が因縁で結ばれた主従に扮したダイナミックな時代劇だ。
戦争によって翻弄される人々の姿
1592年、中国大陸への進出をもくろむ豊臣秀吉の命により、朝鮮半島へと攻め込んできた日本軍。
あっという間に北上してきた敵軍を恐れた朝鮮14代王선조(宣祖)は、都である한양(漢陽)をいち早く離れ、その姿に失望した民衆たちは宮廷へと火を放つ。
代々続く武官の家柄の跡取りである종려(ジョンニョ)は、自宅に妻子を残して王と行動を共にするが、幼い頃から彼と育った奴婢の천영(チョンヨン)は、義兵の一団に加わり日本軍と戦う。
7年後、戦が終わり、廃虚となった漢陽で2人が再会する。
歴史的事件を別の角度から描く
1592年と1597年の2度にわたって日本が朝鮮へと兵を進めた文禄・慶長の役。
韓国では임진왜란(壬辰・丁酉倭乱)と呼ばれるこの戦いでは、開戦直後、日本軍が평양(平壌)まで侵攻したが、官軍や義兵による応戦に加え、이순신(李舜臣)率いる水軍が数々の海戦で亀甲船を駆使して勝利を重ね、1597年末の秀吉の死を契機に全軍が退却した。
歴史上の大きな出来事であるこの戦争は、これまでも数々のドラマや映画の題材となっており、近年では、김한민(キム・ハンミン)監督が李舜臣を主人公とするアクション3部作『명량(バトル・オーシャン 海上決戦)』(2014)、『한산:용의 출현(ハンサン 龍の出現)』(2022)、『노량: 죽음의 바다(ノリャン 死の海)』(2023)で大成功を収めている。
『戦と乱』では、身分を超えて互いに信頼を深めてきた主人公たちの関係が、激しい闘いを経ることによって決定的に変化してしまう過程を中心に、自らの欲望に固執する王、国を守るために命懸けで戦った下層の人々の運命を描いていく。
カン・ドンウォンが見せる力強いアクション
奴婢でありながらも、その傑出した剣の技を認められ主人の息子ジョンニョと対等の関係を築いていくチョンヨンを演じているのはカン・ドンウォン。
『형사 Duelist(デュエリスト)』(2005)や『군도:민란의 시대(郡盗)』(2014)でも華麗な剣さばきを見せてきた彼が、今回もトレーニングを重ね、力強いアクションを披露。青い衣装に身を包み、義兵たちの先頭に立って戦う姿に目を奪われる。
一方、友人だと信じていたチョンヨンに裏切られたと思い込み、対立を深めていくジョンニョ役は、『다만 악에서 구하소서(ただ悪より救いたまえ)』(2020)、『밀수(密輸1970)』(2023)など、話題作への出演が続くパク・ジョンミン。
さらに、義兵を率いる将軍김자령(キム・チャリョン)を『달짝지근해:7510(マイ・スイート・ハニー)』(2023)の진선규(チン・ソンギュ)、男たちが驚くほどの激しい気性の持ち主범동(ボムドン)をドラマ「지옥(地獄が呼んでいる)」の김신록(キム・シンロク)、民よりも宮殿の再建を優先する宣祖を『싱크홀(奈落のマイホーム)』(2021)の차승원(チャ・スンウォン)が演じている。
監督の김상만(キム・サンマン)は、『기생충(パラサイト 半地下の家族)』(2019)などのポスターを手掛けたデザイナーとしても知られ、本作にプロデューサー、脚本で参加している박찬욱(パク・チャヌク)監督の『공동경비구역JSA(JSA)』(2000)で美術監督も務めた経験を持つ。
釜山国際映画祭を前に行われたインタビューでは、この作品が「世の中を見る視点についてもう一度考える機会になればと思っている」と語っている。