韓国映画の新しい時代の扉を開けた名作『쉬리(シュリ)』がデジタルリマスター版で帰ってきた。
1999年に韓国で公開され、翌年、日本でも異例の大ヒットとなったこの映画は、韓国の情報機関の職員と北朝鮮の特殊工作員たちとの新型爆弾を巡る攻防にラブストーリーを絡めた完成度の高い娯楽作。
今では大ベテランとなった俳優たちの若き日の姿もまぶしい。
数々のヒット作を生み出したカン・ジェギュが監督
情報機関OPの特殊要員유중원(ユ・ジュンウォン)は、同僚이장길(イ・ジャンギル)と共に要人暗殺事件を調査中、박무영(パク・ムヨン)率いる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の特殊部隊が液体爆弾を奪取しようとしていることに気付く。
同時に彼らが長年追っていた女性スナイパー、이방희(イ・バンヒ)も活動を再開していた。一方、ジュンウォンと恋人이명현(イ・ミョンヒョン)との結婚式の日も近づいていた。
デビュー作の『은행나무 침대(銀杏のベッド)』(1996)でSFXを駆使したファンタジー映画を作り上げ、第2作となったこの映画で国内外に衝撃を与えた강제규(カン・ジェギュ)監督。
2004年には장동건(チャン・ドンゴン)、원빈(ウォンビン)という二大スターを起用し朝鮮戦争の悲劇を描いた『태극기 휘날리며(ブラザーフッド)』(2004)が観客1000万人を越える大ヒットとなった。
その後も、『마이웨이(マイウェイ 12,000キロの真実)』(2011)、『장수상회(チャンス商会〜初恋を探して〜)』(2015)、『1947 보스톤(ボストン1947)』(2023)といった作品を発表。
フィルモグラフィーを振り返ると、分断国家である韓国の歴史と現在を見据えたエンターテインメント作品を作り続けてきたことが分かる。
『シュリ』の中でも、立場が違うはずのジュンウォンとムヨンが、共に朝鮮半島の統一を真剣に考えている姿が胸を打つ。
実際の歴史と重なる描写にも注目
約25年前に作られたこの作品は、その後の歴史と重ね合わせてみるのも興味深い。劇中の主な舞台は1998年。
2002年のサッカーワールドカップを4年後に控えて南北合同チームの結成が計画され、その前段階として行われる親善試合会場に南北首脳が揃って顔を見せる。
実際には、ワールドカップは日韓共催で行われ、北朝鮮は参加しなかった。また、本作の韓国公開から約1年半後の2000年6月には金大中大統領と金正日総書記が平壌で初の南北首脳会談を開催。
パーティーの席では、映画の中でパク・ムヨンが揶揄した、統一を願う歌「우리의 소원(我らの願い)」が両国の出席者によって歌われたという。
主演は1990年代をけん引したハン・ソッキュ
主人公のジュンウォンを演じているのは、公開当時、「ヒットの保証小切手」「全ての脚本が彼の元に集まる」と言われるほどの人気を誇っていた한석규(ハン・ソッキュ)。敏腕要員であると同時に、恋人といるときはとてもロマンチックな人物は彼の個性にとても合っている。
そんな彼の前に現れるパク・ムヨン役は最新作『파묘(破墓 パミョ)』(2024)でも貫禄のある姿を見せていた최민식(チェ・ミンシク)。カリスマティックな演技で「北朝鮮の人間を初めて魅力的に見せた」と評された。
二人はその後、『천문: 하늘에 묻는다(世宗大王 星を追う者たち)』(2019)で久しぶりに顔を合わせている。
ジュンウォンの同僚イ・ジャンギル役は、『기생충(パラサイト 半地下の家族)』(2019)など数々の名作に出演し、韓国ナンバーワン俳優の呼び声も高い송강호(ソン・ガンホ)。本作では少し照れくさそうにエリート要員を演じている。
実質的な映画デビュー作で大役を任されたミョンヒョン役の김윤진(キム・ユンジン)は、この後、アメリカのドラマシリーズなどにも出演。近年も『자백(告白、あるいは完璧な弁護)』(2022)などで活躍している。
また、『서울의 봄(ソウルの春)』(2023)をはじめ数々のヒット作で知られる황정민(ファン・ジョンミン)がラストでちらりと顔を見せているのもお見逃しなく。