『このろくでもない世界で』

孤独な男たちの出会いから始まる映画『このろくでもない世界で』

コロナ禍以降、少数のメガヒット作は登場しているものの、苦境が続く韓国映画界。そんな中、昨年、10月に韓国で封切られた『화란(ファラン)(このろくでもない世界で)』は、「この映画を作らずにはいられない!」という新人監督の切実な思いが詰まった一作だ。

ドラマと映画を行き来しながら活躍を続けるトップスター、송중기(ソン・ジュンギ)が脚本にほれ込み、出演を決めたことでも注目を集めたこの作品の魅力はどんなところにあるのだろうか。

絶望の中で出会った2人の男

『このろくでもない世界で』
(C) 2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

生まれ故郷の小さな町で鬱屈(うっくつ)した毎日を送る高校生연규(ヨンギュ)。母と義父、彼の連れ子の하얀(ハヤン)と4人暮らしの彼は、義父の暴力におびえながら、いつか町を出る日を夢見ていた。

ある日、同じ高校に通うハヤンを守るため不良グループを傷つけたヨンギュは、示談金を請求され困り果てる。そんな彼を見ていた地元の犯罪組織のリーダー치건(チゴン)は黙ってその金を用意し、彼を助ける。

数日後、アルバイト先を首になったヨンギュはチゴンの下を訪ねる。

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自分自身の人生がなかなかうまくいかない時期に、アルバイトで生計を立て、この映画の脚本を書いたという김창훈(キム・チャンフン)監督。

自伝的な内容ではないが人物の関係性やテーマ、映画の中に登場する路地の雰囲気などに自身の経験が溶け込んでいるという。

家族から受けた暴力に傷つけられながら、自らも暴力を振るうようになってしまう若者の姿は양익준(ヤン・イクチュン)監督の『똥파리(トンパリ)(息もできない)』(2009)、家庭環境に恵まれない主人公が暴力組織に入ることで新しい人生を始めようとするというストーリーは이창동(イ・チャンドン)監督の『초록 물고기(チョロン ムルコギ)(グリーンフィッシュ)』(1997)を思い出させる。

3本全て監督デビュー作であるところも共通している。

若手俳優たちのリアリティーあふれる演技

『このろくでもない世界で』
(C) 2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

主人公のヨンギュを演じているのは短編映画やインディペンデント映画で経験を積み、本作で見せた鮮烈な演技で青龍賞の新人賞に選ばれた홍사빈(ホン・サビン)。

彼のようになりたいと憧れ、一挙手一投足を真似していたチゴンに対する感情の変化と、どんな状況になっても失われないナイーブさがひしひしと伝わってくる。

『このろくでもない世界で』
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そんな彼に(ヨク)(悪態)をつきながらも、父親の暴力から守ろうとするハヤン役は、歌手BIBIとしても知られる김현서(キム・ヒョンソ)。

今年は「밤양갱(パミャンゲン)(栗ようかん)」の大ヒットでも話題を集めた彼女の、恐れを知らない強いまなざしにも圧倒される。

『このろくでもない世界で』
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また、組織のナンバー2で、新参者のヨンギュを疎ましく思う승무(スンム)役の정재광(チョン・ジェグァン)の演技も素晴らしい。

存在感を発揮するソン・ジュンギ

『このろくでもない世界で』
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そして、冒頭でも書いた通り、ヨンギュにかつての自分の姿を重ね、組織で面倒を見るチゴン役をソン・ジュンギが演じている。

韓国内でのお披露目となった昨年の釜山国際映画祭のイベントでは「家庭内暴力という共通点のある2人の関係は時々、ラブストーリーのようにも感じられる。ヤクザ映画にも見えるがその他の要素もある作品」と、魅力を語っていた。

常に挑戦的な作品選びで知られ、それまでとは違う演技を見せる機会を探し続けてきた彼が、キャリアを重ね、次世代の監督や俳優たちを後押しするような立場になったことが感慨深い。

この映画の原題は、劇中でヨンギュの憧れの国として登場するオランダを漢字で表記した『화란(和蘭)』。英語題名の『Hopeless』と併せて考えてみると、主人公ヨンギュが夢と絶望の間で必死にもがく物語であることがよく分かる。

『このろくでもない世界で』
(C) 2023 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES, HiSTORY ALL RIGHTS RESERVED.

原題:화란
邦題:このろくでもない世界で
公開:(韓国)2023年10月11日 (日本)2024年7月26日
監督:キム・チャンフン
出演:ホン・サビン、ソン・ジュンギ、キム・ヒョンソ、チョン・ジェグァン

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