地球に住む多くの人が宇宙への旅に憧れるように、多くの映画人たちは宇宙を舞台にした映画に憧れ、多くの作品を生み出してきた。
最新の技術をいち早く取り入れ、韓国映画の境界を押し広げてきた김용화(キム・ヨンファ)監督の『더 문(THE MOON)』も、そんな作り手の夢が詰まった1本だ。
月面探査に向かったロケットで事故が発生
5年前の悲劇的な爆発事故の後、ついに月面探査への旅立ちの日を迎えた有人ロケット、ウリ号。
船長の상원(サンウォン)とクルーの윤종(ユンジョン)、선우(ソヌ)を乗せ、月へと順調に近づいていくが、太陽風のために起きた通信トラブルに対応しようと船外作業をしていたクルーたちが事故で命を落としてしまう。
たった1人残されたのは経験の浅いソヌ。緊急事態に対応するため、宇宙センターの前責任者재국(ジェグク)が呼び戻され、遠隔作業でソヌを地球へと誘導しようとする。
ヒットメイカーの新たなる挑戦
日本のマンガを原作に、全身特殊メイクの主人公の変身を描いた『미녀는 괴로워(カンナさん大成功です!)』(2006)、スキージャンプ競技を臨場感たっぷりに見せたスポーツコメディー『국가대표(国家代表!?)』(2009)、CGを駆使したダイナミックな映像をふんだんに使いながら、あの世(=冥界)で審判を受ける人々の奮闘を追ったファンタジー大作「신과함께(神と共に)」シリーズ(2017&2018)と、挑戦を続けてきたキム・ヨンファ。
2029年が舞台の『THE MOON』の脚本を読み、2022年に国産ロケット打ち上げに成功した現在であれば、説得力を持つ物語になるのではと、映画化を決めたという。
リアリティーを高めるため、制作の初期段階から韓国航空宇宙研究院や韓国天文研究院に助言を求め、「今はできなくても数年後には可能かもしれない」設定を考えていったそうだ。
ト・ギョンスが孤独な宇宙飛行士役
たった1人で月に取り残される宇宙飛行士ソヌを演じているのは、「神と共に」シリーズに続いてキム・ヨンファ作品への出演となったEXOのD.O.こと도경수(ト・ギョンス)。
朝鮮戦争後の捕虜収容所を舞台にした『스윙키즈(スウィング・キッズ)』(2018)でも難しい役柄を演じ切り、俳優としても高い評価を得てきた。
モニターを通じてのやりとりが中心で、ほとんどが1人芝居となる今作での演技は新たなチャレンジとなった。
脚本を読み込んで想像を膨らませ、キム・ヨンファ監督と対話を重ねながら演じていった。
また、月面に着陸して以降、次々と襲いかかる試練の中で見せるアクションも臨場感がある。たった1人(?)の相棒となるドローンのマルとの絆も見どころだ。
5年前の事故の責任を取って宇宙センターを離れていたジェグクを演じるのは、韓国を代表する名優설경구(ソル・ギョング)。
宇宙船の開発責任者として再び宇宙センターのモニターの前に立ち、ソヌに声を掛け続け、物語が進むに従って彼との因縁も徐々に明らかになってくる。
本欄でも紹介した『소년들(罪深き少年たち)』(2022)と同様、過去にしてしまった行いに対する後悔を抱える人物の心の動きを力強く見せている。
そんな彼の元妻で、アメリカNASAの統括ディレクター、문영(ムニョン)役は『윤희에게(ユンヒへ)』(2019)の김희애(キム・ヒエ)。ジェグクに対する複雑な思いを抱えながらも、遠くから彼をサポートしようとする。
ソル・ギョングとは初共演だったが、Netflixで配信が始まったばかりのドラマ「돌풍(旋風)」でも再び顔を合わせている。
その他、ソヌの父役を『리멤버(復讐の記憶)』(2022)の이성민(イ・ソンミン)、ジェグクの後任センター長を『이상한 나라의 수학자(不思議の国の数学者)』(2022)の박병은(パク・ビョンウン)、ウリ号のクルーを『가장 보통의 연애(最も普通の恋愛)』(2019)の김래원(キム・レウォン)と『육사오(宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました)』(2022)の이이경(イ・イギョン)が演じている。
新人宇宙飛行士ソヌは無事、地球に帰ってくることができるのか。宇宙センターならぬ、劇場のスクリーンで見守ってほしい。