実力のある俳優が次々と登場している韓国。『한공주(ハン・ゴンジュ 17歳の涙)』に主演した천우희(チョン・ウヒ)も、現在、最も注目されている俳優のひとりだ。
あるインタビュー番組で「命懸けで演技に打ち込んでいる」と語っていた彼女は、そのキャリアの原点ともいえる本作でも、難しい役柄にチャレンジしている。
転校先で明らかになる主人公の過去
ある事件がきっかけで、新しい高校に転校することになった공주(ゴンジュ)。心を閉ざしてひっそりと暮らしていた彼女に同級生은희(ウニ)が声を掛け、やがて少しずつ親しくなっていく。
しかし、ウニがネット上にアップした動画が、ゴンジュの過去を知る人々に見つかってしまい……。
釜山国際映画祭でワールドプレミア上映された後、ロッテルダム国際映画祭やドーヴィル・アジア映画祭など、世界の映画祭を回って多くの賞に輝いた本作。
デリケートなテーマを繊細に扱った新人이수진(イ・スジン)監督の手腕が高い評価を得るとともに、興行的にも大健闘した。
2004年に起きた事件をモチーフにしたドラマ
同年代の少年たちから性的暴行を受け、転校を余儀なくされた女子高生ゴンジュの過ごす日常を描いた本作には、2004年に起き、先頃、加害者たちの個人情報の流出がニュースとなった密陽女子中学生暴行事件を思わせる事件が登場する。
しかし、「時間の経過に沿ってストーリーを進行すると、加害と被害という関係だけに注目が集まり、見た人の怒りを引き出すことを最終目的とする映画になってしまいそうだった」と監督が語っているように、事件そのものに焦点を当てるのではなく、事件後の主人公が必死に生きる現在を追っていく中で、徐々に事件の全容が明らかになっていくという構成になっている。
韓国社会に大きな衝撃を与えたこの事件に関連した映画は、これまで『시(ポエトリー アグネスの詩)』(2010)や『김복남 살인사건의 전말(ビー・デビル)』(2010)などが作られてきたが、被害者である少女の“その後”に注目した本作からは、手を差し伸べる大人の少ない社会に生きる若者たちの苦悩が切実に伝わってくる。
一度、オーデイションに落ちたチョン・ウヒ
ゴンジュを演じたチョン・ウヒは1987年生まれと、設定よりもやや年長だったため、一度はオーディションに落ちたとのこと。
しかし「撮影中に俳優をかなり追い込むことになりそうだ」と気付いた監督が考えを変え、実績のある彼女を起用。ゴンジュの複雑な心情を見事に表現し、高い評価を得た。
その後も彼女は『곡성(哭声/コクソン)』(2016)や『비와 당신의 이야기(雨とあなたの物語)』(2021)といった映画や、ドラマで活躍。
2024年は主演したドラマ「더 에이트 쇼(The 8 Show〜極限のマネーショー〜)」と「히어로는 아닙니다만(ヒーローではないけれど)」がほぼ同時に発表されるなど、改めて注目が集まっている。
また、ゴンジュに音楽的な才能を見いだす同級生ウニを子役出身でドラマ「내 뒤에 테리우스(私の恋したテリウス〜A Love Mission〜)」の정인선(チョン・インソン)が爽やかに演じている。
わが子を守るため、被害者であるはずのゴンジュをさらに困難な状況に追い込む加害者の親たち。その姿が「あなただったら彼女に何ができますか?」と問い掛けてくる作品だ。
この映画が紹介されている書籍
定価:1518円(本体1380円+税10%)