歴史的な出来事や社会的なテーマを題材にすることの多い韓国映画。今回紹介する『소년들(罪深き少年たち)』の정지영(チョン・ジヨン)も、長年にわたって骨太な映画を手掛けてきた監督の1人だ。
実際にあった事件を基にした今作でも、力なき被害者たちの側に立って不正を暴こうとする刑事の奮闘を力強く見せている。
ドラマでも取り上げられた冤罪事件とは?
17年前に小さなスーパーで起きた殺人事件に関わったことがきっかけで、へき地での勤務を余儀なくされていた警察官준철(ジュンチョル)。
後輩の尽力もあり、かつて働いていた전주(全州)に戻った彼は、ひょんなことから、창호(チャンホ)という青年と再会する。
彼はスーパー殺人事件の犯人として仲間2人と共に逮捕され、刑期を終えて社会復帰を果たしていたのだった。
ジュンチョルは事件の翌年に「事件の真犯人は別にいる」という通報を受けて容疑者を見つけたが、上層部からの圧力もあって罪を証明できなかったという苦い記憶を持ち続けていた。
彼らの無罪を信じ再審に向けて奔走していた弁護士らは、当時の捜査内容を知るジュンチョルに助けを求めるが……。
1999年に전라북도(全羅北道)の삼례(サムレ)村にあったスーパーに3人の強盗が侵入し、眠っていた夫婦と妻の母を縛って金品を盗んだ際に高齢だった母を死に至らしめた「サムレ・ナラスーパー強盗致死事件」を基にした今作。
手荒な捜査によって得られた自白に信ぴょう性がなく、真犯人についての情報提供が行われたにもかかわらず服役した3人は、出所後に再審を請求。2016年に無罪判決を受けた。
この衝撃的な事件は、2020年に권상우(クォン・サンウ)主演のドラマ「날아라 개천용(熱血弁護士パク・テヨン〜飛べ、小川の竜〜)」でも取り上げられ、刑事たちの強引な尋問や、担当検事による隠蔽などが描かれた。
『罪深き少年たち』では、真犯人を見つけながらも少年たちを助けることができなかった悔しさと恥ずかしさを胸に抱くベテラン刑事を主人公に、過去と現在を行き来しながら事件の経緯を追っていく。
韓国を代表する社会派監督チョン・ジヨンの手腕が光る
監督を務めたチョン・ジヨンは、1946年生まれの大ベテラン。1982年にデビューし、朝鮮戦争中にパルチザンとして活動した男の回想を描いた『남부군(南部軍 愛と幻想のパルチザン)』(1990)、ベトナム戦争に参戦した記憶にむしばまれていく主人公を見つめ、東京国際映画祭作品賞、監督賞に選ばれた『하얀 전쟁(ホワイト・バッジ)』(1992)などを発表。
軍事政権による過酷な拷問を生々しく見せた『남영동1985(南営洞1985~国家暴力、22日間の記録~)』(2012)や金融スキャンダルの裏にある権力者たちの癒着に迫った『블랙머니(権力に告ぐ)』(2019)といった作品も手掛けている。
どの作品にも、重い題材をエンターテインメントとして見せようとする強い意志が感じられる。
あるインタビューでは「長い間、権力を持つ者たちの強い結び付きや彼らが犯す蛮行を見守り、批判的な視線を維持してきた。
映画では単純に事件を描いて終わるのではなく、公開された後、ほんの少しでも世の中が変わるのではないかという可能性について語りたかった」と答えている。
ソル・ギョングを中心に多彩なキャストが集結
かつて“狂犬”と呼ばれたが、現在はすっかり意欲を失っている刑事ジュンチョル役は『킹메이커(キングメーカー 大統領を作った男)』(2022)など、多くの主演作を持つ名優설경구(ソル・ギョング)。
また、彼の強い推薦で出演が決まったというドラマ「오징어 게임(イカゲーム)」(2021)の허성태(ホ・ソンテ)がジュンチョルを支える、かつての部下정규(ジョンギュ)を好演。
その他、ジュンチョルの前に立ちはだかるエリート警察官をドラマ「경이로운 소문(悪霊狩猟団:カウンターズ)」シリーズ(2020、2023)の유준상(ユ・ジュンサン)、被害者ながら少年たちの無罪を信じる女性미숙(ミスク)を『발신제한(ハード・ヒット 発信制限)』(2021)の진경(チン・ギョン)、ジュンチョルの妻をドラマ「마스크걸(マスクガール)」(2023)の염혜란(ヨム・へラン)と、実力ある俳優が集結。
さらに、出所後も無念を抱える青年チャンホを『독전(毒戦 BELIEVER)』シリーズ(2018、2023)の김동영(キム・ドンヨン)が、승우(スンウ)をドラマ「사랑의 불시착(愛の不時着)」の유수빈(ユ・スビン)が、彼らと因縁のある青年재석(ジェソク)を『늑대사냥(オオカミ狩り)』(2022)の서인국(ソ・イングク)が演じている。