韓国映画の力を改めて世界中に知らしめた『기생충(パラサイト半地下の家族)』、新鮮な素材を扱って大ヒットした『극한직업(エクストリーム・ジョブ)』や『엑시트(EXIT)』が大きな話題を呼んだ2019年の韓国映画界。
そんな中、新人である김보라(キム・ボラ)監督が手掛け、2018年の釜山国際映画祭を皮切りに世界各地の映画祭で高い評価を受けていた『벌새(はちどり)』も劇場公開され、インディペンデント映画としては異例の14万人以上の観客を集めた。
監督の体験を基に少女の感情を精密に描く
1994年の서울(ソウル)。中学2年生の은희(ウニ)は、両親と姉、兄と一緒に団地で暮らしている。父は高圧的で兄ばかりを優遇し、家の中にはいつも緊張感が漂っていた。
学校にもなじめないウニは、ボーイフレンドの지완(チワン)と会うことと、別の学校に通う親友지숙(チスク)と漢文塾に通うことを楽しみに暮らしていた。そんなある日、塾の講師が変わり、大学を休学中の영지(ヨンジ)との授業が始まる。
キム・ボラ監督が自身の経験を基に14歳の少女の日常とその中で揺れ動く感情を精密に描き出したこの作品。
「人間の心の地形のようなものを描いてみたかった」という監督の言葉通り、父や兄に対する恐怖、母への甘え、親友への信頼、後輩の前で見せる傲慢など、「ごく普通」に見える少女の心が持つ多面性が細やかに伝わってくる。
1994年の韓国の日常
息苦しい日々を送っているウニに、先人の知恵が詰まった漢文を通して広い物の見方を伝える教師ヨンジのキャラクターも素晴らしい。
ヨンジの背景は詳しくは語られないが、ソウル大学を長く休学していること、労働運動の歌を歌うこと、どこか寂しげに見えることなどから、1990年代前半に多くの死者を出した学生運動の近くにいた人ではないかと推測される。
クライマックスに登場する성수대교(聖水大橋)の崩壊も含め、ドラマ「응답하라1994(応答せよ1994)」(2013)とは違う角度から当時を知ることができる。
成長と喪失の物語
成長の物語であると同時に喪失の物語でもあるこの映画は、修学旅行のシーンなどがあるため、韓国では세월호(セウォル号)の事故と重ねて見る人も多かったという。
また、ウニの母や姉、ヨンジといった女性キャラクターが置かれている状況は、1981年生まれのキム・ボラ監督と同世代の女性が主人公の小説『82년생 김지영(82年生まれ、キム・ジヨン)』も思い出させる。
この映画が紹介されている書籍
定価:1490円(本体1355円+税10%)