전라북도(全羅北道)に属する부안(扶安)へは、서울(ソウル)から車で南に下って4時間程度。
外国人観光客が訪れるには結構な苦労だが、それでも韓国でおいしい物を食べるなら積極的に地方を訪ねるべき、という好例として紹介したい。
三方を海に囲まれた半島地域
西海岸ににゅっと突き出た변산반도(辺山半島)が扶安の大半を占める。三方を海に囲まれているということは、当然ながら海の幸に恵まれた地域ということ。従って、扶安におけるごちそうといえば、まずは四季折々の取れたて魚介である。
半島の突端にある격포항(格浦港)で市場の方に尋ねたところ、「春は참돔(マダイ)、夏は농어(スズキ)、秋は전어(コノシロ、コハダの成魚)、冬は숭어(ボラ)」といった面々が主役となるそうだ。これらを회(刺し身)で味わいながら、春だったら卵を持った주꾸미(イイダコ)を、샤브샤브(しゃぶしゃぶ)にしたり、さっとゆがいて초고추장(唐辛子酢みそ)につけて食べたり。初夏から夏にかけては갑오징어(コウイカ)もおいしい。
そんな話を聞きながら水槽に目をやると、바지락(アサリ)、대합(ハマグリ)、해방조개(バカガイ、標準語では개량조개)、피조개(アカガイ)、키조개(タイラギ)、동죽(シオフキ)といった貝がずらりと並んでいた。扶安の海は遠浅になっていて、潮が引くと広大な干潟が顔を出す。ここで採れる種類豊富な貝も、扶安の特産品だ。
これらの魚介は全国にも流通しているが、鮮度抜群の状態で味わえるのは、やはり産地ならでは。地方を食べ歩くべき、最も大きな理由の1つと言えよう。
食を通じて町の姿を知る
젓갈(塩辛)も扶安の特産品だ。どっさり採れた貝の一部は塩を加えて保存する。よくできたことに、この扶安という土地は、古くから塩田事業でも栄え、上質の천일염(天日塩)を産する。
新鮮な魚介と、うまい天日塩があれば、塩辛の味も素晴らしいのは自明の理。곰소という地域には젓갈단지(塩辛団地)と呼ばれる塩辛販売店の密集地域があり、ここでは常時20種類前後の塩辛が並ぶ。漁業、製塩業、塩辛製造販売業という地域に密着した産業が、これらを味わうことで見えてくる。
海だけではない扶安の魅力
潤沢な海の幸についてはまだまだ語る余地があるが、扶安という地域は漁業、製塩業と共に養蚕業も盛んである。2006年には韓国で唯一「누에특구(カイコ特区)」が置かれたほど、力を入れている産業だ。これがまた扶安の食文化と大いに関連する。
養蚕業といえば、必要になるのがカイコの餌となる桑畑。扶安の町では至る所で見掛けるが、その栽培面積は全国一である。そうなれば自然と、오디(桑の実)や、뽕잎(桑の葉)の利用も発達していく。
飲食店を1つ紹介しよう。築150年以上の한옥(韓屋)を店舗とする「당산마루(タンサンマル)」は、桑の実や桑の葉を使った料理を自慢とする한정식(韓定食)の専門店。
テーブルにずらりと並んだ器を見ると、오디연잎밥(桑の実入りのハスの葉ご飯)、뽕잎김치(桑の葉と一緒に漬け込んだキムチ)、뽕잎고등어(塩を振って桑の葉とともに熟成させた焼きサバ)、뽕빈대떡(桑の実を加えた緑豆のお焼き)と見事なまでの桑尽くしだ。
店の人いわく、桑の実は料理に自然な甘さを加え、桑の葉は香りとともに、栄養面でのメリットも期待できるという。
店の裏には항아리(かめ)がたくさん置かれており、料理に使う간장(しょうゆ)、된장(みそ)、고추장(唐辛子みそ)などは全て自家製というこだわりの店。
ぜひ扶安を訪ねることがあったら、海の幸と共に桑料理も堪能してみてほしい。
店舗情報
(写真提供:八田靖史)
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