韓国各地の知られていない絶品鍋料理を巡る旅。今回は、경상남도(慶尚南道)のご当地鍋を紹介する。
慶尚南道ってどんなとこ?
韓国の南東部に位置する地域。自治体としては부산광역시(釜山広域市)、울산광역시(蔚山広域市)、慶尚南道に分かれる。慶尚南道の道庁所在地は창원(昌原)。
東部と西部は태백산맥(太白山脈)、소백산맥(小白山脈)の先端に当たる山岳地域で、中央部には낙동강(洛東江)が流れて平野部を成す。
부산(釜山)は韓国最大の港町であり、水産物の水揚げ港として栄えるほか、海外との貿易、物流の拠点として発展している。
울산(蔚山)は重工業や石油化学の本社、工場が集まっており、自動車輸出も盛んな工業都市である。
慶尚南道は南部の海岸地域を中心に漁業、養殖業が行われており、一帯は한려해상국립공원(閑麗海上国立公園)としても指定される。
代表的な観光地としては、양산(梁山)の통도사(通度寺)、합천(陜川)の해인사(海印寺)、진주(晋州)の진주성(晋州城)などがある。
韓国最大の港町、釜山で楽しむご当地鍋
韓国最大の港町である釜山。この町で鍋料理といえば、やはり海の幸から選抜するべきだろう。定番ではあるが、刺し身を食べた後の매운탕(辛口のアラ鍋)というのがまず思い付くところ。
韓国では刺し身となると1匹単位で注文するので、광어(ヒラメ)であれ、참돔(マダイ)であれ、頭と骨が残る。これを鍋として煮込めばいいだしが出るのはもちろん、背骨周り、エラの辺りなど、残った身をほじくる楽しさもある。
あるいは범일동(凡一洞)地区に行くと、낙지볶음(テナガダコ炒め)が地元の名物となっている。全国的には炒め物を指す料理名だが、この地域では煮汁を多めにした鍋料理仕立てで作る。
別名を조방낙지とも呼び、これはかつて近隣にあった조선방직(朝鮮紡織)株式会社の社員らが、仕事終わりによく食べたことに由来する。
甘辛い煮汁に絡めたプリプリの낙지(テナガダコ)がおいしいのはもちろん、好みで새우(エビ)や、곱창(牛ホルモン)をトッピングできるのもうれしい。
새우を足したら낙새볶음、곱창を足したら낙곱볶음、両方足した豪華版は낙곱새볶음という略称もぜひ覚えてほしい。
驚くほど上品なマガレイのスープ
釜山近郊にも魚介のおいしい町は多い。蔚山の정자항(亭子港)はひなびた地方漁港といった風情で、대게(ズワイガニ)、天然の돌미역(岩ワカメ)、참가자미(マガレイ)を名産とする。
その中でもおすすめしたいのが참가자미국(マガレイのスープ)。カレイというと、ともすれば泥臭い印象もあるものだが、このスープは驚くほどに透き通って上品であり、身はほろほろとやわらかく、そこへピリッと青唐辛子が効く。これだけを目当てに亭子港まで行っても損のない逸品である。
名産地で食べる絶品マダラ料理
慶尚南道の南海岸沿いにもおいしい魚介の鍋料理が多い。2010年に釜山と거가대교(巨加大橋)で結ばれた거제(巨済)では、冬になると대구(マダラ)の水揚げでにぎわう。
漁は11月下旬から始まって、12月から旧正月までが最盛期。市場にずらりと並べられるマダイは、日本語の「鱈腹(たらふく)」という言葉がぴったりと当てはまる、まるまる立派に太った姿である。
鮮度が良いのでまず刺し身。しかる後に대구전(マダラのチヂミ)、대구뽈찜(マダラの頭の蒸し煮)、대구지리탕(マダラの澄まし鍋)とコースで楽しむ。味落ちの早い魚であるが故に、産地での味わいはまったく別物とうならざるを得ない。
秋に必ず訪れたい! マツタケの名産地
と、ここまで魚介系の鍋ばかり紹介してきたが、慶尚南道は山の幸にもスペシャルな一品がある。4対1でも見劣りはするまい。それが창녕(昌寧)の송이닭국(マツタケと鶏の鍋)だ。
店主が裏山で採った송이버섯(マツタケ)を、ぶつ切りの토종닭(地鶏)と一緒に煮込んだもので、鍋が出てきた瞬間こそ気前よくどっさりのマツタケに目が奪われるが、食べ始めると汁、汁、汁。
味付けは塩だけなのに、マツタケから、地鶏から、それはそれは芳醇なだしが出て香りとうま味の洪水にうっとりする。シーズンは9月中旬から10月下旬まで。この町だけは何度行っても毎年行きたいと心から思う。
(写真提供:八田靖史)
この記事が掲載されている書籍
「韓国人と鍋」
定価:1518円(本体1380円+税10%)