韓国各地の知られていない絶品鍋料理を巡る旅。今回は、전라남도(全羅南道)のご当地鍋を紹介する。
全羅南道ってどんなとこ?
韓国の南西部に位置する地域。自治体としては광주광역시(光州広域市)、全羅南道に分かれる。全羅南道の道庁所在地は무안(務安)。
東部には韓国で2番目の標高1915mを誇る지리산(智異山)がそびえ、中部から西部にかけては나주평야(羅州平野)などの平野部が広がる。
광주(光州)は南西部の中心都市であり、1929年の光州学生事件や、1980年の5.18 민주화운동(5・18民主化運動、日本では光州事件とも呼ぶ)を背景に「民主化の聖地」と呼ばれる。
光州を囲む全羅南道は、西海岸から南海岸にかけてリアス式海岸と島しょ地域が連なり、漁業、養殖業、製塩業が盛んである。
代表的な観光地としては、海割れが有名な진도(珍島)、朝鮮王朝時代の城跡である순천(順天)の낙안읍성(楽安邑城)、日本統治時代の歴史を伝える목포(木浦)の목포근대역사관(木浦近代歴史館)がある。
全羅南道は韓国屈指の美食密集地帯で、有り余る候補から5種類に絞るのは苦行にも等しい難題である。
光州はご当地鍋の宝庫!
広域市の光州だけでも、애호박찌개(韓国カボチャの鍋)、소머리국밥(牛頭肉のクッパ)、애저탕(子豚鍋)と多士済々だが、それでもここは오리탕(アヒル鍋)をまず推すべきだろう。
ぶつ切りにしたアヒル肉は身が締まって味わいが深く、エゴマ粉をどっさり入れたスープはチキンカレーを思わせる濃厚さ。
エゴマ粉を溶いた초고추장(唐辛子酢みそ)に、ちょんと身を付けて食べてもおいしい。
麗水で絶品ハモをご賞味あれ
5市17郡を抱える全羅南道においてはますます悩ましいが、남해안(南海岸:朝鮮半島の南側の海域)に面して大小多数の島しょ群を抱える여수(麗水)が頭一つ抜けている。
地域の海は한려해상국립공원(閑麗海上国立公園)、다도해해상국립공원(多島海海上国立公園)の両方にまたがっており、まさしく「麗しい水」を有する。
数多くの魚介を名産とするが、その中でも脂の乗った夏の갯장어(ハモ)が絶品中の絶品。
1990年代までは日本へも盛んに輸出されたことから、現地では日本語の하모유비끼(ハモしゃぶしゃぶ〈湯引き〉)が呼び名として残っているが、骨切りしたハモをニラと共に韓方スープにくぐらせ、韓方しょうゆのタレにつけて味わうスタイルは完全に韓国式だ。
港町、木浦の高級魚ニベ
木浦も魚介の充実した港町。こちらも夏の高級魚である민어(ニベ)をぜひとも一度は試してほしい。
大きいものは1メートルをも超えるサイズの魚だが、大味なところはまったくなく、刺し身にするとねっとり脂が乗っておいしい。
また、大型魚だけあって実に太く立派な背骨を持っているのだが、煮込むとこれでもかというほど力強いだしが出る。
現地では夏バテ予防に、삼계탕(参鶏湯)ではなく민어탕(ニベの鍋)を食べるほど。体の底から力のみなぎる滋養の鍋だ。
シンプルなのに味わい深い天然キノコ鍋
同じく南海岸に面する해남(海南)は港町でありながらも、두륜산(頭輪山)で採れた버섯탕(キノコ鍋)が抜群においしい地域。
2018年にユネスコの世界遺産として登録された대흥사(大興寺)の参道に店が集まっており、その中に自ら山で採った天然キノコだけを鍋にしてくれるところがある。
능이버섯(コウタケ)、싸리버섯(ホウキタケ)、꾀꼬리버섯(アンズタケ)など日替わりで十数種類。
これらに牛肉、タマネギ、唐辛子を少量加えて味付けは塩のみ。それでいて驚くほどに複雑かつ澄んだ味わいのスープに仕上げる。
老舗のコムタンは歴史的価値あり
最後は나주(羅州)名物の곰탕(コムタン:牛スープ)。西海岸から영산강(栄山江)をさかのぼったこの地域では、かつて大規模な市場が開かれ、物流の中心となった。そこへ集まる人々の腹を満たしたのが、牛の各部位を大釜で煮込んだコムタン(牛スープ)。
老舗店の「하얀집」はなんと1910年の創業と、韓国の飲食店としては2番目に古い(1番はソウルの「이문설농탕(里門ソルロンタン)」で1904年創業)。行列の絶えない店ではあるものの、ぜひ立ち寄ってその歴史的価値をも満喫してほしい。
(写真提供:八田靖史)
この記事が掲載されている書籍
「韓国人と鍋」
定価:1518円(本体1380円+税10%)