韓国各地の知られていない絶品鍋料理を巡る旅。今回は、전라북도(全羅北道)のご当地鍋を紹介する。
全羅北道ってどんなとこ?
韓国の中西部に位置する地域。自治体としては全羅北道が全域を占める。全羅北道の道庁所在地は전주(全州)。
東部は소백산맥(小白山脈)、노령산맥(蘆嶺山脈)が延びて山岳地域を成し、中央部から西部にかけては韓国最大の平野である호남평야(湖南平野)が広がる。
西海岸は遠浅で広大な干潟を有するが、군산(群山)から부안(扶安)にまたがる地域を干拓中であり、새만금と呼ばれるこの場所には서울の3分の2の面積に相当する広大な土地が造成される予定である。
代表的な観光地としては、全州の한옥마을(韓屋村)、익산(益山)の미륵사지(弥勒寺跡)、진안(鎮安)の마이산(馬耳山)などがある。
群山には日本統治時代に大勢の日本人が住んでいたことから、現在も日本式の建築物が多く残る。
ビビンバ発祥の地! 全州の名物「豆もやし」
全羅北道の道庁所在地、全州の郷土料理というと多くの人が비빔밥(ビビンバ)を思い浮かべるに違いない。
전주비빔밥(全州ビビンバ)は韓国で最も広い湖南平野という穀倉地帯の象徴。良質の米を産し、新鮮な野菜が豊富にあり、고추장をはじめとする장(醬/ジャン)作りも盛んという全羅北道の豊かさそのものである。
その全州ビビンバに欠かせない野菜が콩나물(豆もやし)。具として使うのみならず、添えるスープも豆もやしと決まっている。
良質の豆もやしがあるからこその全州ビビンバであり、だからこそこの町には콩나물국밥(豆もやしのクッパ)というもう一つの名物がある。
煮干し、昆布、大根などを煮込んだスープに、たっぷりの豆もやしとご飯を投入。豆もやしのシャキシャキ感が心地よく、滋味あふれるダシの味が五臓六腑に染み渡る。
美食の街、扶安は塩の名産地
その全州を拠点に、どの近郊地域へ足を伸ばしてもおいしいものだらけなのが全羅北道だが、個人的に美食の町とおすすめしたいのが西海岸から半島として突き出た扶安である。
アサリ、イイダコ、コウイカといった四季折々の魚介に加え、天日塩の名産地でもあることから塩辛作りも盛ん。
さらには養蚕で栄えたことを背景に、その餌となる桑の葉、桑の実を使った料理も名物となっている。
鍋料理としては대합(ハマグリ)が名産なので、대합탕(ハマグリ鍋)を挙げておくが、焼いても、蒸しても、おかゆにしてもおいしいことは言うまでもない。
絶品グルメが目白押しの群山
その扶安とセマングムの防潮堤で結ばれている群山もおいしいものが多い。
新鮮魚介がそろうのはもちろん、それらを利用した干物の味が見事であり、また日本統治時代に多くの日本人が渡り住んだことから、その時代に伝わったあんパンや奈良漬け(나나스끼と呼ぶ)が名物となっている。
この町の鍋料理としては꽃게탕(ワタリガニ鍋)があり、간장게장(ワタリガニのしょうゆ漬け)も有名だが、両料理とも質、そしてサイズで群を抜き、味はもちろん食べ応えといった意味でも太鼓判を押せる。
登山客の口コミで有名に! 完州のスンドゥブチゲ
완주(完州)は순두부찌개(スンドゥブチゲ)が有名。1960年代に화심리(花心里)という地域で、近隣の山々を訪れる登山客に提供して有名になった。
もろもろと柔らかな豆腐がおいしいのはもちろん、アサリのダシが効いたスープも美味。
加えてこの地域では豆腐の副産物である비지(おから)を使用して店頭でドーナツを揚げる。むしろ비지도넛(おからドーナツ)のファンも多いぐらいで、そのふわっと軽い食感でつい何個も食べてしまう。
全羅道式のドジョウ汁
南東部の남원(南原)は추어탕(ドジョウ汁)の代名詞的存在。朝鮮王朝時代の説話「춘향전(春香伝)」の舞台となった광한루(広寒楼)の近くに専門店が集まる。
大根の葉と共に煮込んだドジョウ汁は異国の地でありながら郷愁を感じさせる。
現在はどこの店でも추어(ドジョウ)は下煮をした後、すりつぶしてから煮込んで味付けをするが、それは本来南原をはじめとする全羅道式である。
ソウルなどでは丸ドジョウを用いたが、おいしさと食べやすさで全羅道式が席巻した。やはり食は全羅道なのである。
(写真提供:八田靖史)
この記事が掲載されている書籍
「韓国人と鍋」
定価:1518円(本体1380円+税10%)