韓国各地の知られていない絶品鍋料理を巡る旅。今回は、서울특별시(ソウル特別市)、인천광역시(仁川広域市)、경기도(京畿道)のご当地鍋を紹介する。
記事の目次
京畿道ってどんなとこ?
韓国の北西部に位置し、首都のソウルを囲むように広がる地域。ソウル特別市、仁川広域市、京畿道に分かれ、この3地域の人口の合計だけで全国の5割超に相当する。
ソウルは交通や物流の拠点として交通網が発達しており、政治、経済、観光の中心的な機能を持つ。隣接する仁川には仁川国際空港、仁川港があり、ソウルへの玄関口としての役割を担うほか、仁川駅前に広がる中華街や、강화도(江華島)といった観光地がある。
京畿道はソウルのベッドタウンとして多数の新興住宅地を抱え、수원(水原)、용인(龍仁)、고양(高陽)の各市は広域市への昇格要件を満たす人口100万人を超過している。
代表的な観光地には朝鮮王朝時代の城郭跡である수원화성(水原華城)や、道内の各地に点在する조선왕릉(朝鮮王陵)などがある。
ソウルのご当地鍋
日本でも大人気のタッカンマリ
1394年に都と定められたソウルは、それ以降、長らく国の中心として栄えてきた。
かつての宮中料理が全国からの進上品によって作られたように、韓国全土からおいしいものが運ばれてできる、集合体のような姿がソウル料理の特徴である。
とはいえ、ソウル発祥とする料理がないわけではない。その代表例が동대문(東大門)で生まれた丸鶏の水炊き닭한마리(タッカンマリ)だ。
この地域には1968~77年に高速バスのターミナルがあり、地方を行き来する大勢の人でにぎわった。
こうした人たちに手軽でボリュームのある料理を提供すべく生まれたのが丸鶏を煮込んだ鍋。鶏と一緒に칼국수(うどんの一種)を煮込んだことから、当初は닭칼국수(鶏うどん)と呼ばれたが、やがて客から自然発生的に「닭 한마리(鶏1羽)! 」と注文が飛んで、これが名称となった。
高速バスターミナルは現在、강남(江南)へと移転しているが、タッカンマリはそのまま東大門名物として残っている。
仁川のご当地鍋
港町の仁川はワタリガニが絶品
仁川国際空港からソウルに向かう人は多いが、仁川自体も大変魅力的であり、素通りしてしまうにはもったいない。西海岸に面した港町であり、歴史的な見どころが豊富な江華島という観光スポットもある。
仁川といえば、江華島沖で取れる꽃게(ワタリガニ)が絶品で、近年は간장게장(ワタリガニのしょうゆ漬け)が人気だが、仁川においては꽃게탕(ワタリガニ鍋)に軍配を上げたい。
カボチャを一緒に煮込むことで甘味の溶け出たみそ仕立てのスープが、ワタリガニのだしと重なってもん絶するほどにおいしい。季節は5月が最も良く、メスが抱える内子のうまさを存分に楽しめる。
今では高級魚!冬におすすめのアンコウ鍋
また、冬場の물텀벙이탕(アンコウ鍋)も名物。물텀벙이とは「水にドボンする魚」という意味で、かつては取れても捨てられていたことに由来する。1970年代以降にその魅力が知られ、現在ではすっかり高級魚になった。
京畿道のご当地鍋
京畿道を代表する鍋料理プデチゲ
京畿道の鍋料理として、まず思い浮かぶのはソーセージ入りキムチ鍋부대찌개(プデチゲ)である。
北部の의정부(議政府)と、南部の평택(平沢)が本場として知られ、どちらも米軍基地のある町というのが共通点だ。
朝鮮戦争後の物のない時代に、米軍基地から流出するソーセージやランチョンミートなどの缶詰類を、韓国式に調理して食べたのが始まり。大ぶりの器にご飯を盛り付け、これを取り皿代わりにして食べるのが本場流だ。
酔い覚ましに最適なスープ
もう一つ有名なのが、양평(楊平)の해장국(酔い覚ましのスープ)。牛の内臓や、선지(血の煮こごり)を具とした鍋料理で、全国に楊平の看板を掲げた専門店を見掛ける。普段の食事としてもおいしいが、飲んだ翌日にはまさしく逸品。
楊平には도래창(豚の腸隔膜焼き)というお酒に合う名物料理もあるので、これをさかなに痛飲した翌日、酔い覚ましスープを食べるのがゴールデンコースと言えよう。
(写真提供:八田靖史)
この記事が掲載されている書籍
「韓国人と鍋」
定価:1518円(本体1380円+税10%)