韓国各地の知られていない絶品鍋料理を巡る旅。今回は、강원도(江原道)のご当地鍋を紹介する。
江原道はどんな所?
韓国の北東部に位置する地域。正式名称は강원특별자치도(江原道特別自治道)である。道庁所在地は춘천(春川)。
北部から南部にかけて태백산맥(太白山脈)が延び、설악산(雪岳山)、오대산(五台山)といった名峰が連なり、山林率が81.5%と高く、全国平均の63.2%を上回って全国1位である。
東部は海に面して漁港や海水浴場が多く、太白山脈とも近接するため、山と海の両方を楽しめる観光地として人気が高い。
西部には春川、원주(原州)といった人口20万~30万人規模の中核都市がある。
代表的な観光地には、メタセコイア並木が有名な春川の남이섬(南怡島)、日の出の名所である강릉(江陵)の정동진(正東津)、軍事境界線に面する고성(高城)の통일전망대(統一展望台)などがある。
2018年に평창(平昌)冬季オリンピック・パラリンピックが開催されたように、ウインタースポーツも盛んな地域である。
日本でも人気のタッカルビ
日本でも有名な、닭갈비(タッカルビ、鶏肉と野菜の鉄板炒め)。その発祥は諸説あるが、多くの場合1960年ごろに春川で、돼지갈비(豚カルビ焼き)の代用として鶏肉を使ったのが始まりとされる。
そのため春川には鉄板式のみならず、薬味ダレに絡めた鶏肉を網焼きにする専門店も多い。どころか近年は石焼きにする店などもあり、ひと口にタッカルビといってもバリエーションは豊富だ。
そして南部の태백(太白)には、汁気を多くして鍋料理のように作った국물닭갈비(スープタッカルビ)がある。
山間部の太白は石炭の採掘によって栄えた地域で、炭鉱労働者が仕事の後に、喉を洗い流す意味からタッカルビにも汁気を求めたのが由来とされる。
一見すると닭도리탕(鶏肉と野菜の鍋)のようでもあるが、味わいはまさしくタッカルビで、ほんのりカレーのような風味も漂う。
冬場は냉이(ナズナ)、夏場は깻잎(エゴマの葉)が入り、その青い風味がアクセントとなる。
干した大根の葉で作るスープ
同じく山間部の양구(楊口)は시래기국(大根の葉のスープ)が名物。大根の葉を干して作る시래기(シレギ)は、もともと冬にキムチを漬ける際、余った葉を保存食として有効活用したものだ。
ところがこの楊口では発想の転換と言うべきか、シレギのための大根を生産しているのが素晴らしい。大根が育つ前に収穫をするので、葉だけでなく茎の部分までたいへん柔らかくおいしいのだ。
主産地である펀치볼(パンチボウル)地区の名前から、現在は펀치볼시래기としてブランドにもなっている。
江陵はハタハタの名産地
山間部から海の方へ出て、江陵では秋から冬にかけて도루묵(ハタハタ)が獲れる。
焼き魚、煮付けと共に도루묵찌개(ハタハタ鍋)が定番だが、これを目指す場合は11月から12月上旬にこだわりたい。
ちょうどメスが卵を抱える時期で、そのブリブリとはじけるような食感が面白く、産地でも珍味として喜ばれる。
ただし、少しでも時期を過ぎると卵が固くなるので、時期の見極めがなかなか難しい。
江原道といえばスケトウダラ!
さらに寒さが厳しくなったら、명태(スケトウダラ)の季節。近年は漁獲量が減って外国産が多く流通しているが、韓国では東海岸の最北端、高城が名産地として知られる。
鮮度の良いものをぶつ切りにして、지리(澄まし仕立て)で出すのが地元流。これを명태지리국(スケトウダラの澄まし汁)と総称し、旬の생태(生スケトウダラ)を使う場合は생태지리국、동태(冷凍スケトウダラ)の場合は동태지리국と呼び分ける。
そんなスケトウダラを乾燥させ、うま味を凝縮させたのが황태(乾燥スケトウダラ)である。こちらは産地での鮮度よりも、いかに水分を抜いて乾燥させるかがより重要となる。
吹き付ける強風と昼夜の寒暖差が必須条件で、これに合うのが平昌、인제(麟蹄)といった山間部。水揚げされたスケトウダラをわざわざ運び、冬から春までじっくり野外で乾燥させる。
これを煮込んだ황태국(乾燥スケトウダラのスープ)は、あふれんばかりのうま味に、干物特有の香ばしさをもまとって滋味あふれる。海と山の距離が近い江原道ならではの料理だ。
(写真提供:八田靖史)
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「韓国人と鍋」
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