韓国文学史(「10分で読める! 19世紀から現代までの韓国文学史」の記事参考)開花期の作品から現代の作品まで、多くの名作、話題作の中から、9作品を紹介します。
記事の目次
무정(無情)
이광수(李光洙)/1917年
이광수の『무정』は、1917年に新聞で連載された、韓国初ともいわれる長編小説である。社会現実に順応する若い知識人の内面世界、同時代の営みや登場人物の性格をリアルに表現した作品。自由結婚、伝統否定、新教育・新文明に対する抽象的な啓蒙主義が作品全編に流れている。翻訳版は『無情』(平凡社刊)。
감자(いも)
김동인(金東仁)/1925年
김동인は1920年代から活動した作家で、口語体の文章を使った短編小説のスタイルを確立、今に読み継がれる作品を多く残した。『감자』は自然主義的傾向の作品。복녀という農家の女性が環境の影響を受けて堕落していく過程を描いた短編小説。翻訳版は「いも(甘薯)」(平凡社刊『金東仁作品集』所収)
태백산맥(太白山脈)
조정래(趙廷来)/1983年
조정래の『태백산맥』は、전라남도(全羅南道)の小さな町を主要な舞台に、植民地支配からの解放後、朝鮮戦争を経て南北分断に至るまでの朝鮮半島の現代史、そしてその中での人々の悲劇を描いた作品。全羅南道を舞台にした小説だけに、この地の方言がふんだんに使われている。翻訳版は『太白山脈』全10巻(ホーム社刊)。
손님(客人)
황석영(黄皙暎)/2001年
朝鮮戦争時、北朝鮮の황해도(黄海道)신천(信川)で、クリスチャンと共産党員の対立から、反共右翼勢力による民間人大虐殺が行われた。この悲惨な虐殺劇が、死者の亡霊と生き残った者の対話を通して語られる悲しくも残酷な物語だ。황석영著『손님』の翻訳版は『客人』(岩波書店刊)。
엄마의 말뚝(母さんの杭)
박완서(朴婉緒)/1980年
박완서の代表作である『엄마의 말뚝』は三部作だ。父を亡くし、母と共に上京した子どもの視線を通して、貧しい生活を送りながらも生きていく家族を描く。1950年代の暮らしと、多くの人が避けられなかった戦争の足跡がくっきり見えてくる。
만인보(萬人譜)
고은(高銀)/1986年
5600人ほどの人物が登場する4001編の詩が収録された고은の『만인보』(全30巻)は、大河小説や人物百科事典のような、時代とその中を生きてきた人たちの営みが見える詩集だ。
엄마를 부탁해(母をお願い)
신경숙(申京淑)/2008年
신경숙は文壇の世代交代を促した代表的な作家。『엄마를 부탁해』は世界30カ国以上で翻訳された。田舎から上京してソウル駅で行方不明になった母。家族は当たり前のように母から注がれていた愛情に気付き、あらためてその存在の大きさを知る。翻訳版は『母をお願い』(集英社刊)。
도시는 무엇으로 이루어지는가(都市は何によってできているのか)
박성원(朴晟源)/2009年
박성원の『도시는 무엇으로 이루어지는가』は、軽快でユーモラスなタッチで、絶妙に話が交錯する8つの短編が収録されている。都市に生きる登場人物が理想の幸せとは何かを求め、遊牧民のような放浪生活を続ける。翻訳版は『都市は何によってできているのか』(クオン刊)。
이만큼 가까이(アンダー、サンダー、テンダー)
정세랑(鄭世朗)/2014年
정세랑の『이만큼 가까이』は個性あふれる友人たちの日常と過去の事件を交差させながら、「私」と友人たちが成長していく姿を描く。中高生時代の夢、挫折、不安、憂鬱、好奇心を思い出すような作品だ。翻訳版は『アンダー、サンダー、テンダー』(クオン刊)。
【番外編】韓国・朝鮮の知を読む
野間秀樹 編/2014年
日本と韓国の知識人140人が、韓国に関わる書物を選び、それについて文章を書いている。韓国語の本も多く紹介されているので、本を選ぶ際に参考にできる。クオン刊。