1987年の民主化、1988年のソウル・オリンピック開催を経て、韓国は1990年代に急激な経済成長を成し遂げるとともに、本格的な消費社会へと突入しました。音楽産業も、1997年のIMF危機を迎えるまで、量的・質的に成長し、多様化が進みました。
そんな1990年代韓国の音楽について振り返る連載の2回目。前回の「서태지와 아이들の登場」に続いて、今回は伝説のクラブ문나이트 (ムンナイト。※나이트は나이트클럽=ナイトクラブの略)とそこから歌謡界のメインストリームへ進出し、ダンスミュージックを広めた1990年代アーティストたちを取り上げます。
記事の目次
「SM第1号歌手」で「韓国ヒップホップの元祖」ヒョン・ジニョン
1990年代初頭、ソウル・梨泰院のムンナイトは、韓国きっての若きダンサーが集まり、交流を深めるとともに切磋琢磨する場となっていました。
SM기획(SM企画。後のSM엔터테인먼트〈SMエンタテインメント〉)を設立したばかりの이수만(イ・スマン)がここで発掘したのが、プロのダンサーとして活躍していた현진영(ヒョン・ジニョン)。
イ・スマンは、彼に歌のトレーニングを施してメインボーカルに据え、さらにダンサー2人を加えた현진영과 와와(ヒョン・ジニョンとワワ)を送り出します。
「SM第1号歌手」である彼らは、1992年発表の「흐린 기억속의 그대(ぼんやりした記憶の中の君)」などで大活躍しました。
しかしこうした成功にもかかわらず、ヒョン・ジニョンは度重なる薬物使用により逮捕され、表舞台から姿を消すことになります。SM企画はこの事件により倒産寸前にまで追い込まれたといいます。
ヒップホップなどの黒人音楽を消化したDEUX
このグループの2代目のバックダンサー(ワワ)だったのが高校の同級生同士だった김성재(キム・ソンジェ)と이현도(イ・ヒョンド)。
二人はヒョン・ジニョンが逮捕された後、ヒップホップデュオDEUX(듀스=デュース)を結成。イ・ヒョンドが曲作りを、キム・ソンジェが振り付けやスタイリングを担当し、多様な黒人音楽やダンス、ファッションを取り込み表現しました。
そして1993年のデビュー曲「나를 돌아봐(俺に振り向いて)」、1995年の「여름 안에서(夏の中で)」などのヒット曲を生み出します。
「夏の中で」は、韓国の夏の代名詞ともいえる曲になり、소녀시대(少女時代)によって歌われた他、2020年にはバラエティー番組「놀면 뭐하니?(遊ぶなら何する?)」での유재석(ユ・ジェソク)、비(ピ、Rain)、이효리(イ・ヒョリ)によるプロジェクト、싹쓰리(サクスリ)にもカバーされました。
DEUXは2年間ほどの活動の後に解散。キム・ソンジェはソロデビュー直後にホテルで謎の死を遂げ、イ・ヒョンドはプロデューサーに転身して他のアーティストに多くの名曲を提供しました。
「꿍따리 샤바라(クンタリシャバラ)」が大ヒットしたCLON
彼らの前に初代ワワを務めていたのがCLON(클론=クロン)の강원래(カン・ウォルレ)と구준엽(ク・ジュニョプ)。二人は兵役や他グループでの活動を経て、遅まきながらデュオを結成します。
1996年発表の「꿍따리 샤바라(クンタリシャバラ)」が軽快なリズムとポジティブな歌詞で国民的な人気を博した後、台湾などでも人気を得ました。
DEUXのメンバーもCLONのメンバーも、ムンナイトの人脈でつながり、ヒョン・ジニョンのバックダンサーを務め、歌謡界に進出しました。
3人組ダンスグループR.ef
1995年にデビューしたR.ef(알이에프 、アールイーエフ)は全員がクラブDJ出身の3人組ダンスグループ。他のメンバーとは少し年の離れたリーダー、박철우(パク・チョル)がムンナイトの古株でした。「고요속의 외침(静けさの中の叫び)」「이별공식(別れの公式)」などのヒット曲があります。
男女混成グループRoo’Ra
やはりムンナイト常連の이상민(イ・サンミン)が結成した男女混成グループがRoo’Ra(룰라、ルーラ)。「날개 잃은 천사(翼をなくした天使)」「3! 4!(スリー!フォー!)」が大ヒットします。
ちなみに「翼をなくした天使」が大ヒットしていた時、Roo’Raと一緒に登場していた꼬마 룰라(ちびっ子ルーラ)という子どもたちのダンスグループがいましたが、BIGBANGのG-DRAGONがそのメンバーの一人でした。
JY Parkもムンナイトの出身
日本では、JY Parkの名前で2PMやTWICE、NiziUのプロデューサーとして知られる박진영(パク・ジニョン)も実はムンナイトに出入りしていた一人。
彼の場合はグループではなくソロとして、1990年代に「그녀는 예뻤다(彼女はきれいだった)」「허니(ハニー)」などをソウルフルに歌い活躍しました。
ソテジワ アイドゥルのヤン・ヒョンソクとイ・ジュノも
前回紹介した서태지와 아이들(ソテジワ アイドゥル)の양현석(ヤン・ヒョンソク)と이주노(イ・ジュノ)もソテジワ アイドゥルの結成前からこのクラブの常連でした。
ロックバンド出身だった서태지(ソ・テジ)が、ダンスを学ぶためにヤン・ヒョンソクと親しくなり、その後のグループ結成に当たって、ヤン・ヒョンソクを通じてイ・ジュノを迎え入れたという経緯があります。
このように、ムンナイトという場所でダンスの技を競い合った多くのアーティストが、1990年代に歌謡界のメインストリームへと進出し、ダンスやラップ、さらにはファッションなど、現在につながる新しい文化を韓国に定着させたことがわかります。
こうしたムンナイトの人脈は、その後のK-POPの発展の礎となっています。
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