韓国各地の知られていない絶品鍋料理を巡る旅。今回は、충청도(忠清道)、대전광역시(大田広域市)のご当地鍋を紹介する。
記事の目次
忠清道ってどんなとこ?
韓国の中西部に位置する地域。自治体としては大田広域市、세종특별자치시(世宗特別自治市)、충청북도(忠清北道)、충청남도(忠清南道)に分かれる。忠清北道の道庁所在地は청주(清州)、忠清南道は홍성(洪城)。
대전(大田)は서울から南部地域へと向かう鉄道の分岐地域であり、20世紀初頭以降に交通の要衝として発展した。세종(世宗)は首都機能移転を目的として2012年に発足した韓国で唯一の特別自治市であり、特別市や広域市と同等の自治権を持つ。
忠清北道は韓国中央部に位置する海なし地域で、한강(漢江)や、금강(錦江)の上流域に当たり、소백산맥(小白山脈)の連なる自然豊かな地域である。
忠清南道は平野部が多く西海沿岸には広大な干潟を有する。かつて백제(百済)の都であった공주(公州)、부여(扶余)は歴史的な見どころに富む。
忠清北道のご当地鍋
韓方薬剤の宝庫
忠清北道は韓国の道として唯一海と接しておらず、鍋料理というと川魚、キノコ、山菜が主役となる。
北東部の제천(堤川)は古くから韓方材の集散地として名をはせた地域で、地元では韓方材を약초(薬草)、薬草を使った料理を약채락(薬菜楽)と称する。
これは「薬」になる野「菜」を「楽」しむという意味で、薬であるとともに食材としても身近な存在ということだ。
その一つ、牛肉、キノコ、山菜を韓方スープでしゃぶしゃぶにする제천약초쟁반(堤川薬草鍋)は、見た目にも豪華であり、味も、香りも華のある逸品。
これをひとしきり味わった後、韓方水で炊いた약초솥밥(薬草釜飯)で締めるのも格別だ。
キジ料理をフルコースで堪能
その隣町、충주(忠州)には꿩샤브샤브(キジ肉のしゃぶしゃぶ)がある。
수안보온천(水安堡温泉)一帯の名物で、キジを自ら飼育する専門店ではキジ料理だけのフルコースを味わうこともできる。
中でも朝さばいたキジで作る、鮮度の良い꿩회(キジの刺し身)は見事のひと言。マグロの赤身かと思うばかりの味わいの、最後の最後にほんのりとだけ鳥らしさが残る。
しゃぶしゃぶとして味わう場合も、熱を通しすぎると固くなるので、刺し身で食べられるものをさっとくぐらせて食べる程度が望ましい。
ただし、現地でも刺し身で出せる店は限られており、どこでもよいというわけではないので要注意。
忠清南道のご当地鍋
絶品海鮮しゃぶしゃぶ
忠清南道では西海沿岸での、海鮮しゃぶしゃぶがおいしい。イイダコ、タイラギなどさまざまな魚介を用いるが、その中でも群を抜くのが洪城の새조개 샤브샤브(トリ貝のしゃぶしゃぶ)。
ヒモ、貝柱、そして身の部分をいっぺんにしゃぶしゃぶすると、クニクニ、むっちり、シャキシャキという三者三様の食感が澄み切った甘さと共に口の中で広がる。旬は真冬、厳寒の2月が最もおすすめである。
大田のご当地鍋
地域の名物「大田六味」をたっぷり使った参鶏湯
逆に夏の鍋なら、大田で삼계탕(参鶏湯=高麗にんじんとひな鶏のスープ)はどうだろう。
大田近郊には高麗人参の名産地である금산(錦山)と、良質な鶏を育てることで有名な논산(論山)があり、これらを利用した삼계탕が地域の名物を総称する「大田六味」の一つとなっている。
そもそも大田という地域は20世紀に入り、鉄道駅の設置とともに発展した町。交通、物流の要衝として栄えた歴史が地域の料理にもよく表れている。
滋養の料理の代名詞、アヒルの韓方鍋
あるいはその大田からちょっと足を延ばした계룡(鶏竜)では、한방오리백숙(アヒルの韓方鍋)を地元の名物とする。
まきをくべた大釜で韓方材と煮込んだアヒルは身がほろりとろり柔らかく、いいだしの出たスープにはエゴマ粉がどっさり入っていてコクがある。夏負けを防ぐ滋養の料理という以前に、食べた瞬間からおいしさで元気になる。
なお、大田は2019年が市に昇格して70年、かつ広域市になって30年という節目の年であった。これを記念して、市では2021年までの3年間を大田訪問の年と定めた。この時期を前後して観光整備に力を入れたので、大田を含む、忠清道地域にぜひ足を延ばしてみてほしい。
(写真提供:八田靖史)
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「韓国人と鍋」
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