2009年の『박쥐(渇き)』以降、ニコール・キッドマン主演の『イノセント・ガーデン』(2013)など、海外での仕事が続いていた박찬욱(パク・チャヌク)監督が久しぶりに韓国の俳優たちと組んだミステリアスなサスペンス『아가씨(お嬢さん)』。
カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された後、2016年6月に公開された韓国では青少年観覧不可(19歳未満観覧禁止)等級の作品ながら観客動員400万人を超える大ヒット作となった。
互いに本音を隠す人物たちの騙し合い
日本統治下の朝鮮。盗賊団の中で育った숙희(スキ)は、“藤原伯爵”を名乗る詐欺師からある“仕事”を頼まれる。
幼い時に両親を亡くし、莫大な財産を相続予定の華族令嬢・秀子と結婚しようとしていた彼は、スキを使用人として屋敷に送り込み、彼女の助けを得て一日も早く秀子の気持ちを引こうと考えたのだ。
分け前を狙って秀子が叔父・上月と暮らす広大な屋敷へとやって来たスキ。目の前に現れた秀子はそれまで見たどんな女性よりも美しく、純真な表情を見せていたのだが……。
英国の小説を大胆に翻案
『올드보이(オールド・ボーイ)』(2003)で日本の同名漫画、『渇き』でエミール・ゾラの小説『テレーズ・ラカン』を下敷きに映画を作ってきたパク・チャヌクは、今回も英国の小説家サラ・ウォーターズが手掛けたミステリー小説『荊の城』を大胆に翻案。たくらみと愛がスリリングに交錯する、エロチックで爽快な世界を作り上げた。
「使用人の視点」で語られた出来事(第1部)を「お嬢様の視点」から語り直す(第2部)という構成は原作のままだが、舞台を1860年代、ビクトリア朝の英国から1930年代、日本の支配下にあった朝鮮へと変更。
登場人物たちのエキセントリックな造形、和風テイストをベースに凝りに凝った美術や衣装など、パク・チャヌク的な要素たっぷりながら、原作よりも格段に軽やかで、チャーミングなガールズムービーと言えそうな幕切れとなっている。
キム・ミニとキム・テリの鮮烈な演技
主人公の令嬢・秀子を演じているのは『소설가의 영화(小説家の映画)』(2022)の김민희(キム・ミニ)。“何も知らないお嬢様”の中に潜む二面性を魅惑的に見せている。
エネルギーにあふれたスキを生き生きと演じた김태리(キム・テリ)もこの作品で一躍、注目の俳優となり、青龍賞では二人そろって、主演女優賞と新人女優賞に輝いた。
さらに、『암살(暗殺)』(2015)に続く共演となる演技派하정우(ハ・ジョンウ)と조진웅(チョ・ジヌン)が、自らの欲望のために女たちを操ろうとする伯爵と上月を楽しそうに演じている。
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