2016年に韓国で刊行されて大ベストセラーとなり、2018年に翻訳版が出版された日本でも大きな話題を呼んだ小説『82년생 김지영(82年生まれ、キム・ジヨン)』。
映画版では정유미(チョン・ユミ)が主人公を演じたのに加え、女性たちの視点から書かれた原作ではかなり影の薄かった夫に人気俳優공유(コン・ユ)が扮したことも話題となった。
夫と娘と暮らす主婦に起きた異変とは?
夫の대현(デヒョン)と2歳の娘と暮らす지영(ジヨン)。出産後、勤めていた広告代理店を辞め、育児に専念することを余儀なくされていた彼女は、突然、自分以外の女性が憑依したかのように話し出すようになる。
妻の様子を心配し、精神科に相談に行くデヒョン。そんな中、설날(旧正月)を迎え、一家で釜山にある대현の実家を訪れたジヨンは、別人のような口調で義母に話し掛けだし……。
小説を読む楽しさは、本の中に登場する人物たちの姿や声、その人たちを取り巻く風景を自由に想像できるところにある。
ただし、読者に与えられるそうした自由は、小説を映像化する作り手たちにとっては「物語の中の人物たちにどのような肉体や声を与えれば説得力を持つだろうか?」という大きな悩みとなる。
『82年生まれ、キム・ジヨン』のように、韓国はもちろん、日本でも話題となった小説であればなおさらのことだっただろう。
主人公ジヨンの今を見つめる映画版
原作では主人公であるキム・ジヨンが、自分の母や大学の先輩などに憑依されたかのような症状を見せたことをきっかけに彼女の人生を時系列で振り返り、同じ時代を生きてきた韓国の女性たちが経験しなければならなかった差別や不条理な扱いを浮き彫りにした。
一方、映画では、いくつかの回想を挟み込みながらジヨンの“現在” を見つめていく。監督は俳優として19年のキャリアを持ち、長編の演出は本作が初となる김도영(キム・ドヨン)。
「差別は特別な時に起こるものではなく、空気のように日常に存在するものだと思う。ジヨンの子ども時代の経験も、自分の話のように感じられた」という彼女は、原作の淡々とした語り口を生かしつつ、より具体的で人間的なキャラクターを作り出している。
チョン・ユミとコン・ユが三度目の共演
主人公ジヨンに扮したチョン・ユミは、ドラマ「연애의 발견(恋愛の発見)」(2014)などで等身大の現代女性を演じてきた俳優らしく、一見、“普通” に見える日常の中で感じる違和感や絶望を自然に見せている。原作では詳しく描かれていない姉と弟のやりとりも印象的だ。
夫役はチョン・ユミと『도가니(トガニ 幼き瞳の告発)』(2011)、『부산행(新感染ファイナル・エクスプレス)』(2016)に続いての共演となるコン・ユ。きょうだいを進学させるため청계천(清渓川)にあった縫製工場で働いた過去を持つジヨンの母役の김미경(キム・ミギョン)の演技にも引き込まれる。
この映画が紹介されている書籍
定価:1490円(本体1355円+税10%)