韓国の鍋料理はいつから食べられているのか?どのように発展してきたのか?写真と共にその歴史を見てみよう。
韓国の鍋料理の起源
韓国における鍋料理の歴史をひも解こうと専門書を見ると、紀元前までさかのぼって、鉄笠を利用した陣中食1の話が出てくる。
大きな鍋で具材を煮て食べるというシンプルな調理法だけに、はるか昔から食べられている、という漠然とした理解でよさそうだ。
朝鮮時代の鍋料理
今の時代に直結する、よく知られた鍋料理のルーツは朝鮮王朝時代に始まる。時代劇で見る王様の食事は大変豪華だが、ここにまず鍋料理が欠かせない。
宮中の膳立ては五汁十二菜を基本としつつ、各地域から進上された季節の山海珍味を用い、これを三つの膳に分けて王様の前に整える。
メインの膳が대원반(大円盤)、脇のやや小さな膳が소원반(小円盤)、それともう一つ作業用の책상반(冊床盤)という膳で専門の女官が鍋料理を作る。
使用される食材は肉、魚介、豆腐など時々で変わり、牛肉を使えば소고기전골(牛肉鍋)、テナガダコを使えば낙지전골(テナガダコ鍋)、豆腐に肉を詰めてセリで結べば두부전골(豆腐鍋)といった具合である。
他にも宮中では宴会食として、現在の宮中料理レストランでも見るような、신선로(神仙炉=宮中式鍋)、도미면(タイと麺の宮中式鍋)といった鍋料理が発達した。
民間における鍋料理
民間においては、1766年に書かれた『증보산림경제(増補山林経済)』という農業書に、갱(羹)という表記でたくさんの鍋料理が紹介されている。
羹は現代における찌개のことと推定されており、牛肉、鹿肉、タイ、アユ、スルメイカ、ムール貝、トウガン、セリ、フユアオイなどの羹が見られる。
中にはマツタケとキジの羹、カキと豆腐の羹といった組み合わせも紹介されており、当時の豊かな食文化が想像できる。
現在の飲食店で見るような鍋料理の名前が定着するのは20世紀に入ってから。1924年に書かれた『조선무쌍신식요리제법(朝鮮無双新式料理製法)』という料理本を見ると、多少表記は異なるものの、된쟝찌개(된장찌개=みそチゲ)、육개쟝(육개장=牛肉の辛い鍋)、도리탕(닭도리탕=鶏肉と野菜の鍋)といったおなじみの名前が見える。
一方で、스키야키(すき焼き)のような日本料理や、西洋料理、中国料理も紹介されており、日本統治時代を前後して諸外国の文化が流入した姿が見えたりもする。
現在の韓国に鍋料理の名称として、복지리(フグちり)、새조개 샤브샤브(トリ貝のしゃぶしゃぶ)といった具合で日本語が俗用されているのは、この時期の名残である。
現代の鍋料理
20世紀中盤以降に生まれた料理としては、朝鮮戦争(1950~53年)後の困窮した時代に米軍からの流出食材を利用して作った부대찌개(ソーセージ入りキムチ鍋)や、1960年代に서울の소공동(小公洞)辺りで発達したとされる순두부찌개(豆腐の辛口鍋)、1970年代にソウルの동대문(東大門)でバスターミナルを利用する客のニーズから生まれた닭한마리(丸鶏の水炊き)などがある。
こうした料理を主役として、韓国の外食産業が花開いていくのは経済的に力の付いた1980年代から。1988年のソウル・オリンピックで国際化が進むと、食の選択肢もぐっと幅が広がっていく。
そこから現代までやってきて、近年の流行はといえば、海外旅行ブームを下地とした鍋料理の国際化が顕著である。
ベトナム料理の월남쌈 샤브샤브(生春巻き&牛しゃぶしゃぶ)や、中国料理の마라탕(麻辣湯)が人気で、既存の食文化とも融合。
마라 부대찌개(麻辣味のソーセージ入りキムチ鍋)、마라 순두부찌개(麻辣味の豆腐の辛口鍋)といったメニューも見える。歴史ある鍋料理の世界も、時代と共に移り変わっていくものなのだろう。
とはいえ、食が多様化していく時期だからこそ、もう一方で집밥(家庭料理)が見直されているのも事実。外でどんなに豪華な鍋料理を楽しもうとも、家で食べるみそチゲに心からホッとするのもまた韓国人だ。
(写真提供:八田靖史)
- 戦地で食べられていた食糧 ↩︎
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