日本でもすっかりおなじみになった、韓国発の웹툰(ウェブトゥーン、縦読みのウェブ漫画)。
多彩なジャンルの作品が次々と発表され、ドラマや映画の原作としても存在感を増している。
悪辣な生徒が教師たちをも支配する高校を舞台にした『용감한 시민(勇敢な市民)』も、そんな作品のうちの1本。
誰もが見て見ぬふりをするなかで、最も弱い立場であるはずの非正規雇用の教師が意外なパワーを発揮する。
密かに暴力がはびこる高校が舞台
校内暴力もなく、平和な高校として名高い무영고등학교(ムヨン高校)。非正規教員で倫理を教える시민(シミン)は、正規採用になることを目標に、理不尽な待遇にも耐える毎日だった。
やがて、学校内で同級生たちに過酷な暴力をふるっている生徒수강(スガン)の存在に気づいたシミン。
そのことを教育庁に報告した彼女に対し、スガンは「出しゃばるな」と警告する。
ボクシング選手としてオリンピック出場直前まで進んだ経験があるだけでなく、テコンドーや合気道の有段者でもある彼女の我慢はやがて限界に達し、ついにスガンとの対決を決意する。
厳しい受験戦争のプレッシャーもあってか、過酷さを増している韓国の校内暴力。
「더 글로리(ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜)」や「약한영웅 Class1(弱いヒーローClass1)」など、そのことをテーマにしたドラマも多い。
また、日本でも公開された『지옥만세(地獄でも大丈夫)』も、校内暴力の被害者である女子高校生たちが加害者だった同級生と再会したことから始まる作品だった。
『勇敢な市民』では、こうした校内暴力に加え、正規職に比べて待遇の悪さが指摘されている教師の非正規採用問題も登場。
기간제(期間制=契約職)という不安定な立場であるがために、目の前の不正に目をつぶろうとする主人公シミンの葛藤が描かれている。
소시민(ソ・シミン=小市民)という名の主人公を演じているのは、「철인왕후(哲仁王后~俺がクイーン⁉︎)」、「이번 생도 잘 부탁해(生まれ変わってもよろしく)」、「웰컴투 삼달리(サムダルリへようこそ)」、「나의 해리에게(私のヘリへ~惹かれゆく愛の扉~)」と、ドラマでの主演が続く신혜선(シン・ヘソン)。
2012年のデビューから着実にキャリアを積み上げてきた彼女は、近年、『결백(潔白)』(2020)、『타겟(ターゲット 出品者は殺人鬼)』(2023)など、映画でも活躍しており、最新作『그녀가 죽었다(#彼女が死んだ)』(2024)も日本公開中だ。
デビュー当初は落ち着いたイメージが強かったが、近年はキャラクターの幅を広げ、『勇敢な市民』でも、170センチ超えの長身を生かしたダイナミックなアクションを披露している。
そんな彼女の前に立ちはだかる残忍な生徒スガン役は、アイドルグループU-KISSの一員として活動後、俳優に転身した이준영(イ・ジュニョン)。
「D.P(D.P. -脱走兵追跡官-)」、「마스크걸(マスクガール)」といったドラマで鮮烈な印象を与えてきた彼が、マスクを被った謎のヒーローと死闘を繰り広げる。
名作を生み出したパク・ジンピョ監督の新境地
監督を務めているのは、老人たちの性を正面から見つめた「죽어도 좋아!(死んでもいい)」(2002)で注目されて以降、社会的なテーマを扱ったヒューマンドラマで手腕を発揮してきた박진표(パク・ジンピョ)。
特に2005年の『너는 내 운명(ユア・マイ・サンシャイン)』は황정민(ファン・ジョンミン)と전도연(チョン・ドヨン)の名演が光る傑作として知られている。
『勇敢な市民』でアクションに挑戦した後、初めてのドラマ「지옥에서 온 판사(悪魔なカノジョは裁判官)」を演出し、高い評価を得た。
暴力を受け続けていた生徒が口にする「沈黙は共犯」というセリフが印象的だった本作。
シミンのように腕力に自信がなくても、自分にもできることはあるはずだと思えてくる。