語彙力は、韓国語のみならずあらゆる外国語学習の土台。しかしそのために単語の暗記は避けて通れません。
学習時間を確保できない人や物忘れが増える年齢の人にとっても同じことです。この「単語問題」、一体どうすれば解決できるでしょうか?
前回の記事「韓国語の単語学習(2)まずは何を覚えるべき?」では、レベル別に覚えないといけない単語数の目安を確認しました。
今回は、人が「単語を覚える」ことが、どのようなプロセスで行われるのかについて見てみます。
単語の認知メカニズムを知る
「単語には、文字(形)の情報、発音(音)の情報、意味の情報があります。
私たちは、これらの情報を目や耳から取り入れて覚え、知識として蓄えますが、ここまでにたどるプロセスがあります」と語るのは日本語・韓国語の教師で認知心理学の観点から研究をしている学習院大学の柳本大地先生。
先生に単語を覚える際の学習の仕組みについて伺ってみました。
「覚える」とは?
まず、目や耳から入った単語の情報は、一時的な情報として取り込まれますが、この時一度に取り込める情報の量には限りがあり、およそ7±2個とされています。※
さらにこの中から幾つかの情報が、「長期記憶」に転送され保存されます。これが「覚える」ということ。
※人が短期に記憶できる容量は、「1つの意味を持った塊」を単位として基本的に7±2であるという説。
「蓄える」とは?
人が一度に取り入れられる情報の量には限りがあるので、多くの情報はすぐに消えてしまうし、一時的には取り込めても長期記憶に転送できていないものはすぐに忘れてしまいます。
つまり「覚えたそばから忘れてしまう」というのがこの状態なわけです。
一度「長期記憶」に取り込まれた情報は、なかなか消えることはなく、すでに持っている知識と関連付けられたり、整理されたりしながら、頭(心)の中に貯蔵されます。
これが「蓄える」ということ。
「思い出す」とは?
そして覚えた単語を見たり聞いたりしたときに、蓄えた知識から意味を検索(探し出すこと)、あるいは意味からその外国語の形や音を検索します。
これが「思い出す」ということ。
ところで私たちの現実では、確実に覚えたはずの単語が思い出せないということも起こりますが、これはその単語に関する情報が、その他のいろいろな情報の中に埋もれてしまって、検索に時間がかかったり、失敗したりしている状態だそうです。
認知心理学が教える単語学習の重要ポイント
このような学習の仕組みから、単語学習のポイントを次のようにまとめることができます。
A:効率よく覚えて蓄える
- 取りこぼしてしまう分も念頭に、一度に覚える数を適度に設定する
- 自分に合った覚え方を工夫する(反復して覚える/関連情報を一緒に覚える/例文や文脈の中で覚える)
- 取りこぼした単語を再度取り込む工夫を行う(何度も見直す)
B:思い出すための検索ルートを作る
- 覚えた単語をたまに見直す(復習やテストを行う/多くの韓国語に触れて、その中で出合えるように心掛ける)
- 覚えた単語をアウトプットすることで記憶をさらに強固にする。
このように、単に単語を覚えるだけでなく、それを思い出す回路をつくるのも大事であることが分かります。
取材協力
柳本大地
学習院大学国際センター准教授
【 やなもとだいち 】
1983年神戸生まれ。広島大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育学博士)。兵庫教育大学在学中に大邱教育大学へ1年間留学。大学卒業後、大邱外国語高校で日本語を教える傍ら大邱教育大学大学院で教育メディア開発を専攻。同大学初の外国人修士号取得者となる。これまで、韓国語・日本語教育に携わってきた。現在、学習院大学国際センター准教授。多文化共生・国際協働学習の科目を担当。認知心理学の観点から第二言語の記憶や理解過程に関する研究を行う。著書に『なりきり! 韓国語会話トレーニング』(HANA刊)、『실전 일본어 회화 플레이』(韓国・사람in刊)、『新一代大学日语教程』第二冊(中国・外语教学与研究出版社刊)がある。
この記事が掲載されている書籍
定価:1518円(本体1380円+税10%)