韓国人の喜怒哀楽を表現した大衆音楽として、多くの人に愛されている트로트(トロット)。しばしば「韓国の演歌」と説明されることもありますが、時代とともに多様な音楽的要素を受け入れながら変化し、今では多様な世代に受け入れられています。
この記事では、「韓国の演歌」や「年配の人が聞く音楽」という説明だけでは片付けられないトロットの魅力について見ていきます。
まずはトロットが歩んできた歴史と名曲について見ていきましょう。
なお、「トロット」というジャンル名は、韓国では1970年代から使われ始めたとされています。それ以前の流行歌もトロットの枠組みの中で語られることが多く、この記事はそこまでさかのぼってから始めることにします。
記事の目次
1930年代の流行歌
日本の植民地統治下の朝鮮では、近代化と共にレコード産業が発達し、1930年代になると多くの流行歌が生まれました。
当時の時代的な状況もあり、これらの流行歌は自分の不幸な境遇や亡国の悲しみ、また、愛する人との別れについて歌った内容のものが主流でした。
音楽的には日本の当時の流行歌との類似点が多く見られます。当時の韓国は日本から強い文化的な影響を受けていました。音楽家の中にも日本で音楽教育を受けた人が少なくなかったので、これは無理のないことだと言えます。
30年代の韓国の流行歌には次のようなものがあります。
李愛利秀「황성옛터(荒城の跡)」
まず、이애리수(李愛利秀)の「황성옛터(荒城の跡)」。朴正熙大統領が愛した曲といわれています。
高福寿「타향살이(他郷暮らし)」
次は고복수(高福寿)の「타향살이(他郷暮らし)」。望郷の念を歌い上げたこの曲は、生きるすべを求めて故郷を離れた当時の人たちの涙を誘いました。日本にいた在日コリアン一世たちにもよく歌われていた曲です。
李蘭影「목포의 눈물(木浦の涙)」
이난영(李蘭影)の「목포의 눈물(木浦の涙)」。木浦市のある전라도(全羅道)を象徴する名曲です。
この曲は、80年代から2000年代初頭まで全羅道に本拠地を置いたプロ野球チーム해태 타이거즈(ヘテ・タイガース。現在のKIAタイガースの前身)の応援歌としても歌われました。
南仁樹「애수의 소야곡(哀愁の小夜曲)」
次は남인수(南仁樹)が歌った「애수의 소야곡(哀愁の小夜曲)」。
黄琴心「알뜰한 당신(つれないあなた)」
황금심(黄琴心)「알뜰한 당신(つれないあなた)」。後に黄琴心は、前述した歌手、高福寿と熱愛の末に結ばれ、夫婦になりました。
金貞九「눈물 젖은 두만강(涙に濡れた豆満江)」
最後に、김정구(金貞九)の「눈물 젖은 두만강(涙に濡れた豆満江)」。
1940年代前半の流行歌
秦芳男「불효자는 웁니다(不孝者は泣いています)」
40年代に入ると、作曲家반야월(半夜月)として多くの名曲を送り出した진방남(秦芳男)が「불효자는 웁니다(不孝者は泣いています)」を歌いました。
白年雪「나그네 설움(旅人の悲しみ)」
また、백년설(白年雪)は、国を失った民族の悲しみを歌ったとされる「나그네 설움(旅人の悲しみ)」を発表しました。
これらの曲は歴史的な名曲として、現在でも多くの歌手に歌い継がれています。
今回紹介した曲の中には時の朝鮮総督府によって販売を禁止された曲もあります。一方で当時芸能活動を行っていた音楽家の中には、日本の植民地統治や軍に協力したため、後日「親日派」「親日人士」として非難された人も多くいました。
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