海外で撮影を行った『설국열차(スノーピアサー)』(2013)やNetflixが製作した『옥자(Okja )』(2017)を経た봉준호(ポン・ジュノ)監督が、久しぶりに韓国に暮らす人々の現実を十二分に盛り込んで完成させた、鋭くスタイリッシュなブラックコメディー。
カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールに加え、米国のアカデミー賞でも、作品賞を含む4部門で受賞。日本でも大ヒットし、韓国映画歴代1位の興行成績を残した。
出演者全員が素晴らしい演技を披露
父親はもちろん、妻と成人した息子と娘も失業者という기택(キテク)一家。窓の外には街を歩く人の足しか見えない半地下の部屋で内職をしながら暮らしている。
そんな彼らの日常は、息子기우(キウ)がIT企業代表동익(トンイク)の家に家庭教師として通いだし、続いて娘기정(キジョン)も同じ家で職を得たことから、変化を見せる。
愛すべき父親キテク役は『살인의 추억(殺人の追憶)』(2003)、『괴물(グエムル 漢江の怪物)』(2006)、『スノーピアサー』(2013)に出演し、ポン・ジュノ監督からも「最も偉大な俳優であり、同伴者」と、絶大な信頼を寄せられている盟友송강호(ソン・ガンホ)。
そのほか息子キウを『Okja』の최우식(チェ・ウシク)、娘キジョンを『검은 사제들(プリースト 悪魔を葬る者)』(2015)の박소담(パク・ソダム)、トンイクを『임금님의 사건수첩(王様の事件手帖)』(2017)の이선균(イ・ソンギュン)、トンイクの妻연교(ヨンギョ)を『인간중독(情愛中毒)』(2014)の조여정(チョ・ヨジョン)が演じている。いずれも素晴らしい演技で、全米俳優組合賞のキャスト賞に輝いた。
二つの家族の格差を空間の対比で表現
貧困状態の中で全員が知恵を絞りながら少しでも良い生活をしようと奮闘するキテク一家と、高級住宅地の豪華な家に住む自分たちの境遇を当たり前のものと受け入れ優雅に暮らすトンイク一家。
対照的な二つの家庭の“格差”が、「坂の上の家と半地下の家」「階段の上と下」といった、垂直関係を強調した空間の中で見事に描き出されていく。
映画の向こうに見える世界の現実
同じ社会に生きながらも、全く共通点がないように見える二つの家族の対比を見ていると、“外国”であるはずの韓国が舞台になっていることを忘れ、そのまま日本(だけではない世界中)の今と地続きにつながっている物語だと痛切に感じられる。
また、タクシー運転手たちが集まる기사식당(運転手食堂)など、韓国独特の場所や物の使い方も絶妙。
過酷な現実を、笑いと映画的な興奮が詰まった作品として完成させたポン・ジュノ監督の手腕に、あらためて感嘆した。
この映画が紹介されている書籍
「韓国の2010年代を振り返る!」
定価:1490円(本体1355円+税10%)